第56回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

脳血管疾患等

[PA-8] ポスター:脳血管疾患等 8

2022年9月17日(土) 12:30 〜 13:30 ポスター会場 (イベントホール)

[PA-8-6] ポスター:脳血管疾患等 8末梢神経刺激と課題志向型練習の併用により箸操作の再獲得に至った一症例

深谷 夏々子1堀口 晃太1 (1医療法人横浜平成会 平成横浜病院リハビリテーション科)

[序論]近年,脳卒中患者に対する末梢神経刺激(Peripheral Nerve Stimulation以下:PNS)と課題志向型練習(Task-related Training以下TRT)の組み合わせが上肢機能の改善に効果的であるという報告¹がある.今回片麻痺を呈し,Activities of daily living(以下:ADL)における食事動作の箸操作低下に至った症例に対してPNSとTRTを併用し,食事動作の改善が見られ,本人HOPEである箸操作の再獲得に至ったため以下に報告する.本症例に際し当院論理委員会の承認を得,症例に説明を行い書面にて同意を得た.
[症例紹介]70歳代男性,右効き,大動脈弁置換術後右不全麻痺で発症し,頭頂葉,前頭葉,後頭葉に散在する多発脳梗塞,左後頭葉に梗塞後出血を認めた.発症16日後にリハ目的のため当院回復期病棟へ転院となった.病前ADLは自立.上肢機能評価はBrunnstrom Stage(以下:BRS)上肢・手指Ⅴ,Fugl-Meyer Assessment(以下:FMA)57/66点,Action Research Arm Test(以下:ARAT)55/57点,明らかな麻痺は見られないがBox and Block Test(以下:BBT)では右20個,左30個と左右差があり,Motor Activity Log(以下:MAL)ではAOU0.8 点QOM0.7点と,日常生活での麻痺肢の使用頻度の低下を認めた.ピンチ力右4.2kg.機能的自立度評価法(以下:FIM)92点.食事動作は6点で左上肢を使用し,右上肢の箸操作は困難であった.「使いづらいですね」と麻痺肢に対し,否定的な言動を認めた.目標はHOPEである「右手で箸を使って食事がしたい」とした.目標の難易度を「箸が正しく持てるようになる」,「箸を使用して物を掴むことができる」,「箸で食事が出来るようになる」と段階付け達成しやすいよう設定した.
[方法・経過]介入初期では促通反復療法を用いて手指,手関節各50~100回ずつ実施し,手指分離の向上を図った.手指分離の向上に伴い粗大動作・巧緻動作を含むリーチ動作訓練や物品操作訓練を併用した.発症37日後にTRTとPNSの併用課題を実施した.ESPURGE(低周波治療器)を使用し,刺激パラメータは生野らの報告を参考に周波数10Hz,パルス幅1msec,刺激強度感覚閾値,電極貼付部位は正中神経,尺骨神経走行部に設定した.PNS使用訓練の難易度調整として訓練で使用する物品を三指でのお手玉,母指と各指の対立を促通するビー玉,ペグと段階付け分離を促し手内在筋の出力向上を図った.箸操作訓練では目標の難易度設定に伴い①正しい持ち方の指導,②固定箸の持久性強化,③操作箸の開閉操作訓練④物品を使用した摘み動作訓練,⑤空間リーチを伴った実動作訓練という手順で訓練を実施した.
[結果] FMA61/66点,ARAT57/57点,BBT右30個,左35個,ピンチ力右指腹6.2kg,MALではAOU4.2 点QOM3.9点と麻痺肢の使用頻度の向上を認めた.FIM117点,食事動作は7点に変化し右上肢での箸操作が可能となった.
[考察] 介入初期,手指は手内筋の低緊張により各指の分離は不十分であった.手内在筋の出力低下,手指の個々の分離動作の困難さにより,箸操作の低下に至ったと考えた.PNSによる正中神経と尺骨神経の同時刺激で,皮質興奮性を増大させ一次運動野と一次体性感覚野が優位に活動したことにより手内在筋の出力が向上し,手指分離性と巧緻性の獲得に繋がったと考える. また,TRTを併用し難易度調整し段階付けて課題設定していくことで運動学習の効果性が促進され,正の強化へと繋がり箸操作の再獲得に至ったと考える.[参考文献]1)生野公貴他:回復期脳卒中患者の上肢機能に対する末梢電気刺激と課題指向型練習の試み. 理学療法学Supplement.Vol.37 Suppl.No.2(第45回日本理学療法学術大会 抄録集):01-090,2010