[PA-8-8] ポスター:脳血管疾患等 8視空間認知障害を呈した脳卒中患者に対し感覚フィードバックを用いたリーチ練習により食事自立に至った症例
【はじめに】今回,視野障害に加えて,注視下で対象へ正確に手を伸ばせないといった視空間認知障害を認めた脳卒中患者を担当した.物体の位置の認識には視覚と体性感覚が重要な役割を果たしており,本介入では残存している体性感覚による代償を用いた介入を積極的に実施し,食事動作の自立に至ったため,その経過を報告する.今回の発表に際して本人へ説明し,文書により同意を得た.
【事例紹介】80歳代右利きの男性.路上生活者.公園内で倒れているところを発見され当院へ救急搬送された. 第6病日目のMRIにて多発性脳梗塞(両側後頭葉,左中心後回,左前頭葉,両側頭頂葉)と診断とされ,第7病日目にリハビリテーションが開始された.
【作業療法評価(第7~10病日)】意識は清明で表出,理解共に可能であった.視神経では病巣と観察から視野障害が強く疑われた.対座法による視野欠損は一貫性のない解答で精査困難であったが,見えている物の呼称は可能であった. 認知機能はMMSE11点.運動麻痺はBRS右上肢5右手指5右下肢5.感覚障害は右上下肢に表在覚,深部覚共に軽度鈍麻が疑われた.高次脳機能障害では,注意機能低下,右半側空間無視を認めた.また「見えているけどずれるんだよ」等の発言に加えて,追視で一点を注視してしまうといった視覚性運動失調や精神性注視麻痺を疑う所見が多く観察された. ADLはFIM41点であり,食事動作では見えているがスプーンが掴めない,お皿の位置が分からない,スプーンを握らせれば口には運べるが,対象へのリーチがずれてしまい食べ物を掬えない等,一連の動作に介助を要した.また主訴に「自分でできることを増やしたい」との声が聞かれた.
【経過】主訴及び上記評価から日常生活で頻度が高い食事動作への介入より開始した.まず机上で対象物を右手で掴む練習からスプーンで対象物をすくう練習へと移行しながら段階付けて実施した. 対象物の大きさで難易度を調整し,視野から外れた際は左手で対象物を触って確認するよう徒手的誘導や声掛けにて繰り返し指導した.ペグボード操作も合わせて実施し,徐々に左手の代償なく,右手だけで的を外す機会は減少していった.また食事場面ではお皿を可能な限りまとめ,枚数を減らした環境調整を行った.
【最終評価(第35病日目)】運動麻痺はBRS上肢6,手指6,下肢6まで改善を認めたが,その他身体機能,高次脳機能ともに著変なかった.一方でADLはFIM87点であり,食事はスプーン,フォークを使用し,セッティングにて動作は自立した.また「前よりつかめるようになった」,「一人でできて嬉しい」との声が聞かれた.
【考察】本症例では,視覚性運動失調や精神性注視麻痺を疑う所見は終始観察されたものの,食器や食べ物へのリーチ動作は可能となり食事は自立した.内藤ら(2004)は, 体性感覚は皮膚や筋骨格系からの複数の情報からなり,皮膚受容器から特徴を詳細に分析し何かを認識し,筋骨格系の受容器から自分の四肢の位置がどこにあるかを認識していると述べている.今回のリーチ練習において,非麻痺側上肢の感覚フィードバックを用いて視空間における物品の座標の確認とその誤差の修正を反復して行ったことが,代償的に残存視覚と手の協調性向上に寄与した可能性が考えられる.さらに機能レベルでの改善は乏しかったものの食事動作を始めとした活動レベルや自覚の点で改善が得られたのには,反復練習による動作学習がADL向上に繋がった要因の一つと考えられる.今回の症例では体性感覚による代償手段を用いた介入を行ったが,他のモダリティを併用した際の効果等は明らかでないため,今後さらに症例を増やして検討していきたい.
【事例紹介】80歳代右利きの男性.路上生活者.公園内で倒れているところを発見され当院へ救急搬送された. 第6病日目のMRIにて多発性脳梗塞(両側後頭葉,左中心後回,左前頭葉,両側頭頂葉)と診断とされ,第7病日目にリハビリテーションが開始された.
【作業療法評価(第7~10病日)】意識は清明で表出,理解共に可能であった.視神経では病巣と観察から視野障害が強く疑われた.対座法による視野欠損は一貫性のない解答で精査困難であったが,見えている物の呼称は可能であった. 認知機能はMMSE11点.運動麻痺はBRS右上肢5右手指5右下肢5.感覚障害は右上下肢に表在覚,深部覚共に軽度鈍麻が疑われた.高次脳機能障害では,注意機能低下,右半側空間無視を認めた.また「見えているけどずれるんだよ」等の発言に加えて,追視で一点を注視してしまうといった視覚性運動失調や精神性注視麻痺を疑う所見が多く観察された. ADLはFIM41点であり,食事動作では見えているがスプーンが掴めない,お皿の位置が分からない,スプーンを握らせれば口には運べるが,対象へのリーチがずれてしまい食べ物を掬えない等,一連の動作に介助を要した.また主訴に「自分でできることを増やしたい」との声が聞かれた.
【経過】主訴及び上記評価から日常生活で頻度が高い食事動作への介入より開始した.まず机上で対象物を右手で掴む練習からスプーンで対象物をすくう練習へと移行しながら段階付けて実施した. 対象物の大きさで難易度を調整し,視野から外れた際は左手で対象物を触って確認するよう徒手的誘導や声掛けにて繰り返し指導した.ペグボード操作も合わせて実施し,徐々に左手の代償なく,右手だけで的を外す機会は減少していった.また食事場面ではお皿を可能な限りまとめ,枚数を減らした環境調整を行った.
【最終評価(第35病日目)】運動麻痺はBRS上肢6,手指6,下肢6まで改善を認めたが,その他身体機能,高次脳機能ともに著変なかった.一方でADLはFIM87点であり,食事はスプーン,フォークを使用し,セッティングにて動作は自立した.また「前よりつかめるようになった」,「一人でできて嬉しい」との声が聞かれた.
【考察】本症例では,視覚性運動失調や精神性注視麻痺を疑う所見は終始観察されたものの,食器や食べ物へのリーチ動作は可能となり食事は自立した.内藤ら(2004)は, 体性感覚は皮膚や筋骨格系からの複数の情報からなり,皮膚受容器から特徴を詳細に分析し何かを認識し,筋骨格系の受容器から自分の四肢の位置がどこにあるかを認識していると述べている.今回のリーチ練習において,非麻痺側上肢の感覚フィードバックを用いて視空間における物品の座標の確認とその誤差の修正を反復して行ったことが,代償的に残存視覚と手の協調性向上に寄与した可能性が考えられる.さらに機能レベルでの改善は乏しかったものの食事動作を始めとした活動レベルや自覚の点で改善が得られたのには,反復練習による動作学習がADL向上に繋がった要因の一つと考えられる.今回の症例では体性感覚による代償手段を用いた介入を行ったが,他のモダリティを併用した際の効果等は明らかでないため,今後さらに症例を増やして検討していきたい.