第56回日本作業療法学会

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ポスター

脳血管疾患等

[PA-9] ポスター:脳血管疾患等 9

Sat. Sep 17, 2022 1:30 PM - 2:30 PM ポスター会場 (イベントホール)

[PA-9-12] ポスター:脳血管疾患等 9回復期における被殻出血と視床出血の退院時機能予後に影響を及ぼす阻害因子の検討

小原 明季1川野辺 穣1進藤 潤也1出南 亜花里1佐々木 正弘2 (1地方独立行政法人秋田県立病院機構秋田県立循環器・脳脊髄センター機能訓練部,2地方独立行政法人秋田県立病院機構秋田県立循環器・脳脊髄センターリハビリテーション科診療部)

【はじめに】脳出血の好発部位は被殻と視床が70%以上を占めるといわれている.部位別の機能予後に関しての研究は多くあるが,病院完結型脳卒中リハビリテーション(以下リハ)を行っている病院での報告は少なく,同時期に同一病院で被殻出血と視床出血を検討した報告は無い.今回,退院時の機能予後から自立に至らなかった阻害因子を運動機能や高次脳機能,ADLの評価から後方視的に比較し,回復期リハ病棟での治療計画の立案の検討を行う.
【対象】2013年3月から2019年4月までに当院回復期病棟に入院した,初回発症の被殻出血患者28名(男性21名,女性8名,平均年齢63.8±9.9歳),視床出血患者29名(男性18名,女性11名,平均年齢63.2±9.4歳)で,脳室穿破例は含めるが多発例や手術適応となった例は除外した.発症から回復期転科までの期間は被殻群28.5±11.2日,視床群24.9±14日であった.
【方法】当院データベース情報を使用し,改善度の定義として退院時運動FIMを回復期リハ病棟1施設基準の実績指数除外案件を参考にA群(76点以上),B群(75点以下)とし,A群をADL自立群,B群をADL非自立群とした.調査項目は,覚醒度の指標としてJCSを,運動機能の指標としてBr.stage(以下BRS)上肢・手指・下肢,脳卒中上肢機能検査(以下MFT),下肢体幹運動機能検査(以下MOA)を,認知機能の指標としてBIT通常検査,Mini Mental State Examination(以下MMSE),Trail makingtest(以下TMT),かな拾いテスト,Kohs立方体組み合わせテストIQを,ADLの指標としてFIMの各下位項目及び運動及び認知項目の合計点及び総点について回復期入棟時,退院時でのA,B群それぞれの数値を抽出し,病巣間並びに病巣内でのA,B群それぞれの機能予後の差異を比較した.統計手法は病巣間,A,B2群の比較で,χ二乗検定とMann-WhitneyU検定にて実施,統計学的有意水準は5%とした.倫理的配慮は当院倫理委員会の承認を得ている.
【結果】病巣間の比較では,回復期病棟入棟時点,退院時点で被殻出血群及び視床出血群でA,B群の割合及び各因子間に有意差はなかった.病巣ごとのA,B2群の比較では,被殻出血群はJCS,BRS手指,MFS麻痺側,MOA,BIT通常検査,MMSE,TMT‐A・B,かな拾いテストにて有意差を認めた.視床出血群はMOA,BIT通常検査,MMSE,TMT‐Aにて有意差を認めた.
【考察】回復期病棟転棟時に挙げる大きな目標の一つはADL自立である.今回の研究は退院時のADL自立,非自立で群別し病巣ごとに比較したところ,被殻出血群のみ有意差を認めたものはJCS,BRS手指,MFS麻痺側,TMT-B,かな拾いテストであったが,一方で視床出血群のみで有意差を認めたものは無かった.つまり,この選択された項目の違いが,被殻,視床が障害されることにより生じる機能障害の影響因子と考えられる.視床出血の臨床像としては意識障害や感覚障害,内包後脚部への血腫の進展があれば運動麻痺などが挙げられ,JCSやBRS手指,MFS麻痺側の結果に合致する.また視床は各感覚受容器から得られた情報全般を大脳皮質に投射する中継核で,視床網様核・視床枕の制御機能低下がなどが注意障害に大きく関与しているとされる(内山 2018).TMT-Bやかな拾いテストは分配性や選択性などの全般性注意機能を検査する評価であり,この結果も視床出血の臨床像と合致する.今回の結果は,被殻出血は視床出血よりも覚醒度や手指運動機能,注意機能においてADL自立に及ぼす影響が強いことが示唆され,目標設定の決定に有用と考える.今後は症例数を増やし,画像所見や急性期での諸検査データも含め検討を継続する予定である.