第56回日本作業療法学会

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ポスター

呼吸器疾患

[PC-2] ポスター:呼吸器疾患 2

Fri. Sep 16, 2022 4:00 PM - 5:00 PM ポスター会場 (イベントホール)

[PC-2-2] ポスター:呼吸器疾患 2成人終末期がん患者への呼吸リハビリテーションを行った一事例

玉城 希1 (1地方独立行政法人 那覇市立病院リハビリテーション室)

【序論】 呼吸リハビリテーションにおいて作業療法(以下,OT)は,呼吸機能や身体機能,生活環境に応じて呼吸困難の少ない効率的な動作方法の指導を通して,「しているADL」の拡大を図る(藤本ら,2019).今回,膵尾部腫瘍StageⅣ,腹膜播種,多量の胸腹水,薬剤性肺障害を呈した事例に対しOTを実施したので以下に報告する.事例より書面で同意を得ている.
【事例紹介】 30歳代男性.身長181.9cm,体重94.1kg,BMI28.4.診断名:膵尾部腫瘍StageⅣ .腹膜播種,血性腹水ClassⅤを認め当院消化器内科外来にて化学療法(以下,ケモ),腹水濾過濃縮再静注(以下,CART)施行していた.今回,胸部Xpで多量の滲出性胸水と高度虚脱を認め,薬剤性肺障害の診断にて入院.ステロイドパルス療法,モルヒネ塩酸塩注射液(以下,塩モヒ),抗菌薬,アルブミン製剤,利尿剤,CART開始される.
【OT評価】 Alb:2.4,γ-GTP:434IU/L,ALP:259IU/L,LDH:421IU/L,Hb:8.9g/dl,Ht:27.7%,CRP:23.45mg/dl,WBC:15700/μl.安静時にオキシマスク5L/分,塩モヒ0.35ml/h使用下でmMRC息切れスケールgrade4,修正Borgスケール6,RR35回/分,SpO2:93%.浮腫著明で着衣困難.Nohria-stevenson分類dry/cold.起坐呼吸認め眠れない.The Nagasaki University Respiratory ADL questionnaire(以下,NRADL)10/100点(食事5,排泄3,更衣2).STAS-J:17点,Palliative Prognostic Score(以下,PPS):40,Palliative Prognostic Index(以下,PPI):12.
【方法】 多職種連携しながら,呼吸困難時の自己管理指導,筋力増強訓練,立位バランス練習,ADL練習を実施.効率化したADL動作は実生活場面へ導入し自立を図る.
【経過】
 1)全身状態・精神状態が不良な時期 day1~10
  介入当初はホスピスを検討.起坐呼吸による不眠が持続し,隣で家族が
 寝ると「自分がちゃんと息してるかみて」と怒鳴る.家族は事例の睡眠
 確保の為,職員の訪室回数を制限.そこで,OTは困難な状況にある事を受
 容・共感しながら,呼吸困難時の自己管理指導や効率的なADL動作方法
 の指導を行うと同時に症状に対して各職種の役割を説明し,連携する
 事で複合的な対応が可能になる事を伝えた.
 2)全身状態が安定し,睡眠も確保できた時期 day11~15
  全身状態安定に伴い呼吸困難感軽減,酸素使用量減少,睡眠確保により
 事例・家族に笑顔が戻る.排泄は歩行も含め自立.清拭は,酸素1L使用を
 要した.
 3)ADLが自立し自宅退院した時期 day16~33
  塩モヒ静注→内服へ変更.自主練習で運動耐用能向上し,室内気でADL
 自立.連続歩行200m・2階への階段昇降も可能となり自宅退院した.
【結果】 腹部・両下肢の浮腫は軽減し着衣可能となる.体重の入院比-13.1kg.臥位で睡眠可能. mMRC息切れスケールgrade3,NRADL:73/100点(食事・排泄・整容・入浴・更衣・病室内移動9,病棟内移動8,階段6,連続歩行4),STAS-J:7点,PPS:70,PPI:1.
【考察】 事例は多量の胸腹水と薬剤性肺障害を呈した事で強い呼吸困難感を生じ,運動耐用能・ADLの著明な低下を認めた.また,起坐呼吸による不眠の持続で休息できず精神的に不安定となり,事例を支える家族の緊張度も増していた.そこで,各症状への薬物療法等が行われた.同時にOTで,呼吸困難時の自己管理指導,効率的なADL動作指導,環境設定,筋力増強訓練等を実施した結果,運動機能,呼吸困難感,生活の質が持続的に改善でき(Dowmanら,2021),多職種やPCTと連携し介入する事で日常生活動作を行う能力が改善され,運動時の息切れが軽減でき(Higginsonら,2014),ADLが向上した状態で自宅退院できたと考える.