第56回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

呼吸器疾患

[PC-2] ポスター:呼吸器疾患 2

2022年9月16日(金) 16:00 〜 17:00 ポスター会場 (イベントホール)

[PC-2-5] ポスター:呼吸器疾患 2日常との繋がりを取り戻すことで不安やストレスの改善を認めた事例~ COVID-19 回復後に重症肺炎を発症した患者と ICU での作業療法~

角上 勇作1木原 涼子1村田 和弘1 (1山口県立総合医療センターリハビリテーション科)

【緒言】新型コロナウィルス感染症(COVID-19)患者は,不安・抑うつ,心的外傷後ストレス障害(PTSD)など精神機能障害を認め,長期に渡り症状が残存するとの報告がある.またコロナ禍における社会情勢を反映し,病院では患者への面会制限を厳しく設けている状況がある.今回COVID-19回復後,重症肺炎を呈し強い不安やストレスを認めたA氏を担当した.SNSを通じた家族との交流や院内での買物など,日常的な生活を取り戻す機会を作ることで不安やストレスが軽減したため考察を交えて報告する.尚,今回の報告に関し対象者より同意を取得している.
【事例紹介】A氏は50代男性で妻・息子と同居している.ADLは自立し新幹線運転手と役員を兼務している.X年Y月にA県にて重症COVID-19・急性呼吸切迫症候群(ARDS)を発症し,人工呼吸器や体外式膜型人工肺(ECMO)装着し,ICUでの治療を経てY+2ヶ月後に退院していた.Y+5ヵ月後,B県滞在中にCOVID-19再燃疑い,肺炎にて当院へ入院した.諸検査よりCOVID-19の感染性は低いため,第4病日には感染隔離を解除しICUへ入室した.同日,肺炎の重症化・ARDS発症に伴い人工呼吸器・ECMO装着や鎮静剤を開始した.第5病日に理学療法と作業療法(OT)を開始し,第9病日にECMOが終了となり,第13病日に気管切開(気切)を施行した.第16病日に鎮静剤が終了し,第21病日には人工呼吸器から離脱した.第30病日よりICU外への車椅子離床を開始し,第38病日にB病院へ転院した.
【 作業療法経過 】 OT 開始時は GCS : E1VtM1 , Richmond Agitation-Sedation Scale(RASS):-4,FIM:運動13点・認知5点,挿管前には死への不安を訴えていた.気切以降はGCS:E4VtM6, RASS+1,FIM:運動13点・認知29点,コミュニケーションは筆談と首振りにて可能だった.作業療法面接では「肩や腕を良くしたい」という希望が挙がり,ベッド上ADLの拡大を目標にADL訓練・上肢筋力強化訓練を実施した.訓練中は自発的な表出が少なく,機能面の改善以外に希望を認めなかった.ADLは順次拡大したが,表情は暗く歩行訓練以外は臥床傾向であった.会話の中で「人工呼吸器がある事」への不安を認め,機器に囲まれた部屋や家族と会えない環境が不安やストレスの要因と考え,精神機能面を評価した.Hospital Anxiety and Depression Scale(HADS)不安9点・抑うつ10点,PTSD評価尺度Impact of Event Scale-Revised(IES-R)38点であり,前回入院時の経験がフラッシュバックし,現状に対する回避行動や死への強い不安とストレスを感じていた.加えて家族と面会や連絡が出来ないという孤独感を認めていた.他職種と情報共有し,ICU外への車椅子離床を計画した.離床中はSNSを利用することで家族に現状報告を行う事ができ,笑顔も多く認めた.また売店では必要物品を購入するなど自発的な行動を認めた.それ以降も家族との交流や買物など日常を取り戻す時間を作ることで,歩行訓練以外でも離床が可能となり,空いた時間を利用して読書をするようになった.転院前評価では,GCS:E4VtM6,RASS0点,FIM運動39点・認知32点, HADS不安9点・抑うつ7点,IES-R27点となり,ADLや不安感・抑うつ,ストレスの改善を認めた.
【考察】A氏は,人工呼吸器やECMOの装着,鎮静管理などのICUでの治療を再経験した事,面会制限により家族とのコミュニケーションが取れない事,気切により表出が制限された事などが複合し,強い不安やストレスを生じたと考える.本事例を通してCOVID-19やコロナ禍における急性期医療では,対象者の精神機能面や環境への支援が必要であり,OTとして介入する意義は大きいと考える.