第56回日本作業療法学会

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ポスター

運動器疾患

[PD-1] ポスター:運動器疾患 1

Fri. Sep 16, 2022 12:00 PM - 1:00 PM ポスター会場 (イベントホール)

[PD-1-6] ポスター:運動器疾患 1先天性握り母指症に対する作業療法介入の1例

笹村 司1 (1JA秋田厚生連 平鹿総合病院リハビリテーション科)

【はじめに】先天性握り母指症とは,手部掌側組織の拘縮などによって,母指がMP関節で屈曲内転し,第1指間の狭小化や母指伸展障害を伴う病態の総称である.母指伸筋腱の欠損や低形成が病因にあるともされ,治療は一般的に早期のスプリント治療による保存療法が選択される.しかし,病因や保存療法の詳細を検討した報告は少なく,新生児からの本疾患に対する作業療法介入の報告はほとんどない.今回先天性握り母指症を呈した新生児に対しての作業療法を経験したため,その方法や工夫点について考察を加えて報告する.
【目的】先天性握り母指症に対する作業療法介入開始時の工夫や改善すべき点から,可及的早期の治療に向けた介入方法について検討する事.
【説明と同意】本報告に際し,対象児の保護者に対して倫理的事項について口頭で十分な説明を行い,了承を得ている.
【症例】生後1か月,男児,早産で出生しNICU管理となった.出生後4日目に母指屈曲内転となっている様子が観察され,その後握り母指症と診断された.退院後,1か月健診時に外来通院で作業療法開始となった.
【評価】児を父親が抱いている状態で初回評価実施した.両側ともに母指内転位の状態で握り込んでおり,第1指間の狭小化みられ他動橈側外転40°から30°の可動域制限を認めた.他動伸展した際にMP掌側手掌皮線周囲で皮膚の脆弱性もみられた.
【介入方法】診察に合わせて2週に1度の頻度での介入予定となった.把握反射を助長しないよう手指の他動伸展を行いつつ第1指間に対してのマッサージを実施.第1指間を拡げることが可能であったため,両親に対しても沐浴時に実施するよう指導を行った.また,スプリント装着による矯正ではなくテーピングによる母指橈側外転方向への矯正を選択した.両親にもテーピングの方法を指導した.その際の固定にはコーバン自着性弾力包帯を利用した.また常時の装着ではなく授乳後や沐浴後等,児が落ち着いている際に装着するよう助言した.
【工夫点と改善点】先天性握り母指症の保存療法としては一般的に可及的早期のスプリント療法が推奨されているが,適応や適切な開始時期についての明確な言及はされていない.本症例は出生後1か月で把握反射があり,皮膚の脆弱性もみられた.また早産からのNICU管理を経過している両親の心身的な負担も考慮して,常時のスプリント治療はせずにマッサージとテーピングを利用する方法を提案した.改善点として,作業療法介入時が児の授乳時間と重なってしまい,リラックスしている状態での関りとはならなかったため,次回介入時は時間帯等の調整が必要と感じた.
【考察】先天性握り母指症はまだ本病態が広く知られてはおらず,治療の開始が遅くなる傾向もある.今回新生児からの早期作業療法を経験したが,発達段階や手の状態等を踏まえた対応が必要であった.本報告時点では初回評価のみの関りのため,経過が追えていないが,今後は経過と結果を踏まえてスプリントの装着等も検討していく必要があると考えられる.主治医との協力を基に,児と両親の負担を可能な限り軽減できるような介入を検討・実施していきたい.