第56回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

運動器疾患

[PD-6] ポスター:運動器疾患 6

2022年9月17日(土) 10:30 〜 11:30 ポスター会場 (イベントホール)

[PD-6-5] ポスター:運動器疾患 6ジストニア型書痙に対する感覚-運動訓練の効果

大和 吉郎1 (1岩手県立磐井病院)

【はじめに】書痙は,書字動作時に前腕・手首・手指等に異常な筋緊張が生じ書字動作が障害される局所性ジストニアの一つである.発生機序は不明な点が多いが特定の運動を効率的に遂行するために感覚入力対運動出力としてプログラムされた運動サブルーチンが反復的な繰り返しにより頻用され,ストレス,向精神薬,遺伝要因,外傷,過度の労作の内的・外的要因が重なり合った結果として症状が出現すると考えられている.今回,ジストニア型書痙の症例に感覚-運動課題を主体とした訓練を行い,実用的な書字動作まで改善が見られたので以下に報告する.なお,報告に際し症例の同意を得た.
【症例紹介】10代男性,右利き.X年Y月,体育でバスケットボールを実施中,転倒し他生徒の膝が頸部左側に強く当たり受傷した.頸部から手指にかけて軽度しびれを生じたが1か月で消失.頭部・頸部MRIで異常所見は認められなかったが,巧緻動作低下が残存,特に書字に時間を要し学業に支障が生じたため,Y+2か月より週1回の作業療法が開始となった.
【初期評価】MMT左右上肢5手指4,握力右10㎏左15㎏,左右表在感覚・深部感覚正常,5㎜間2点識別不確実であった.書字動作では手関節から手指の筋緊張が高まりやすく,鉛筆のつまみの保持は努力的で一定の手指の肢位を保てず,鉛筆が手指から外れてしまうことが度々あった.また,手指,手関節は固定的で肘,肩の動作が優位な運筆動作であり,筆圧は安定せず不均整な字体であった.書字速度は漢字2字(12画+10画)70秒,仮名4字86秒を要していた.運筆は直線に比べ曲線でより困難さがあった.
【作業療法経過】
協調動作訓練+運筆動作訓練期(Y+2~13か月)
運筆動作に伴う手指から手関節の各関節の協調動作の向上を目的として,指先でのなぞり動作から始め,太めの棒を使用した運筆動作,そして鉛筆を使用した書字動作訓練へ段階づけた.また,運筆方向は単一ベクトルである直線から始め,ベクトルの変化が伴う直角や曲線へと難易度を調整した.書字速度は漢字2文字19秒,仮名4文字20秒と向上したが,1分間書字は14文字(高校生平均41文字)であり実用レベルではなかった.授業での板書は十分に行えず,テストは先生の代筆であり実用的な書字は難しかった.
運筆動作訓練+感覚-運動訓練期(Y+14~19か月)
これまでの運筆動作訓練に加えて,複合感覚の促通訓練として指腹での物品認識課題や形状認識課題,さらに,手指の表在覚・深部覚等のフィードバックを必要とする動作訓練として閉眼での運筆動作や書字動作練習を行った.
【結果】MMT左右上肢5手指5,握力右28㎏左30㎏であり,左右表在感覚,深部感覚正常,3㎜間の2点識別可能であった.書字動作における手関節から手指の協調動作が向上し,筆圧・筆速ともに安定し均整の取れた文字となった.書字速度は,漢字2文字8秒,仮名4文字6秒,1分間書字34文字となった.授業では板書が可能となり,テストの回答は書字にて可能となった.
【考察】村瀬らは,書痙患者は感覚入力の修飾,加工が運動に際して中枢性に誤って処理,加工されていて,これが症状出現に関与していると推察している.今回,運筆動作に関わる手指から手関節の協調動作訓練に加えて感覚-運動訓練を実施したところ,実用レベルの書字動作まで向上が見られた.感覚-運動訓練が,運動に際しての感覚入力の修飾,加工の改善に寄与し,書痙の改善につながったと考える.書痙を運動の異常と捉えるだけでなく,感覚-運動の異常として作業療法を実施することが重要と思われる.