第56回日本作業療法学会

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ポスター

運動器疾患

[PD-8] ポスター:運動器疾患 8

Sat. Sep 17, 2022 1:30 PM - 2:30 PM ポスター会場 (イベントホール)

[PD-8-4] ポスター:運動器疾患 8手根管症候群における母指回内角度の低下がピンチ力に与える影響

山家 恭平1鶴代 奈月1日比野 直仁2横尾 由紀2和田 一馬2 (1地方独立行政法人 徳島県鳴門病院リハビリテーション技術科,2地方独立行政法人 徳島県鳴門病院整形外科)

【序論】
我々は,デジタルゴニオメータを用いた母指回内角度の測定法を考案しており,3軸角速度測定との高い相関,検者内信頼性を得ている.一方,手根管症候群 (CTS) では母指回内角度が低下するとの報告 (黒岩智之,2018) があるが,ピンチ力に与える影響は十分に明らかにされていない.母指回内角度の低下がピンチ力に与える影響を調査することで,CTSにおける筋力低下の特徴を把握できる可能性がある.そこで本研究では,CTSにおける母指回内角度の低下が,ピンチ力に与える影響について検討した.
【対象・方法】
2021年2月から11月までに,当院にてCTSと診断され,手根管開放術 (OCTR) を施行した40例を対象とした.平均年齢は65.2±13.3歳の男性13例,女性27例,患側は右側23例,左側17例であった.すべての対象者に術前評価を行い,母指回内角度および各ピンチ力を左右それぞれ測定した.母指回内角度測定には伊藤超短波社製のデジタルゴニオメータを使用し,第1中手骨背側に貼付したsplint材を指標に測定を行った.対象者には,机上に前腕回外位,手関節掌背屈中間位,示指から小指のMP,PIP,およびDIP関節伸展0度で固定し,母指最大橈側外転位から最大掌側外転位まで自動運動を行わせ,運動開始から終了までの角度変化を母指回内角度とした.ピンチ力測定にはOG技研社製のピンチメータを使用し,鍵ピンチ力,指腹ピンチ力,および三点ピンチ力を測定した.統計解析には,SPSS25.0Jを使用し,患側および健側の母指回内角度の差を対応のあるt検定を用い,その後,患側または健側の母指回内角度を従属変数とし,同側の各ピンチ力を独立変数とした単相関分析を行った.すべての検定における有意水準は5%未満とした.なお,本研究は当院倫理審査委員会(1331) の承諾を得ており,対象者の同意を得ている.
【結果】
術前の母指回内角度は患側が11.5±7.3度,健側が16.3±3.9度であり,有意差が認められた (p <0.01).患側の鍵ピンチ力,指腹ピンチ力,三点ピンチ力は,3.1±2.1kg,2.3±1.8kg, 2.4±1.6kgであり,健側では,4.4±2.0kg,3.4±1.8kg,3.9±1.8kgであった.また,患側において,母指回内角度と三点ピンチ力 (r = 0.420 : p < 0.01),および指腹ピンチ力 (r = 0.337 : p < 0.05) との間に有意な相関関係が認められた.健側において,母指回内角度および各ピンチ力との間に相関関係は認められなかった.
【考察】
患側の母指回内角度は健側に比べて有意に低下し,三点ピンチ力および指腹ピンチ力との間にそれぞれ正の相関関係が認められており,CTSによる正中神経麻痺によって,母指対立筋 (OP),短母指外転筋 (APB),および短母指屈筋 (FPB) の筋力低下が生じたためと考えられる.また,鍵ピンチ力との間に相関関係が認められなかった原因としては,尺骨神経支配の母指内転筋が主動作筋のためと考えられる.一方,健側では母指回内角度の低下は生じておらず,母指回内角度および各ピンチ力との間に相関関係は認められなかった.これらのことから,CTSにおいて母指回内角度が低下する症例では,三点ピンチ力および指腹ピンチ力も低下させる可能性がある.そのため,日常生活において重要である物品つまみ動作の能力低下を予防するために,OCTR後にOP,APB,およびFPBの筋力強化が必要な可能性が示唆された.