第56回日本作業療法学会

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ポスター

がん

[PF-4] ポスター:がん 4

Sat. Sep 17, 2022 11:30 AM - 12:30 PM ポスター会場 (イベントホール)

[PF-4-1] ポスター:がん 4仕事復帰を契機に発症したリンパ浮腫に対し,作業療法士の介入により改善した乳がん(乳房切除+腋窩リンパ節郭清術後)の1例

萩原 尋子1栗原 将太1兵道 哲彦1山下 智弘2 (1株式会社麻生 飯塚病院リハビリテーション部,2株式会社麻生 飯塚病院リハビリテーション科)

【はじめに】
 日本癌治療学会におけるリンパ浮腫の診療ガイドラインにおいて「リンパ浮腫を発症する可能性のある悪性腫瘍の手術を受けた患者に対して,予防のための患者指導を行うべく,2008年度に乳がん,子宮・卵巣がん,前立腺癌など一部の悪性腫瘍を対象としてリンパ浮腫指導管理料が設定された.適正な患者指導がリンパ浮腫の発症を抑止することが臨床的に十分示されており,今後適応癌腫が拡大することが期待されている」とある.
 続発性リンパ浮腫発症予防への介入の重要性は,医療者側には周知されているが,患者への周知は十分とは言えない.そこで当院リハビリテーション科・部(以下リハ科・部)では外科と併診し,乳がん手術患者に対し,術前よりリハ科医師の診察,術後リンパ浮腫の説明,作業療法士(以下OT)による評価,リンパ浮腫予防指導を行っている.今回,乳がん術後患者が仕事復帰を契機にリンパ浮腫を発症し,OTの介入によりリンパ浮腫が改善したため,以下に報告をする.
【症例】
 40代,介護福祉士の女性.右利き.左乳がんに対し,左乳房切除+腋窩リンパ節郭清を施行.術後18日目に自宅退院.
病理結果;pT1cN1M0 stageIIA Luminal Aであったため,術後補助化学療法,放射線治療後に抗ホルモン療法開始.
【リハビリテーション経過】
入院中の経過;OTによる術前評価:両側上肢周径・関節可動域(以下ROM)・Visual Analog Scale (以下VAS)・筋力・つらさと支障の寒暖計・Quick-DASH・体成分分析装置を実施.術後3日目以降:当院で作成したパンフレットを使用しリンパ浮腫予防を指導,ROM練習.退院前日:術後評価施行.
外来での経過;リハ科外来にて,術後,定期的に医師の診察ならびにOTによる評価,リンパ浮腫予防の確認を行った.術後6ヶ月目の評価までは問題なく経過しており,仕事復帰に向けて仕事量の調整や上肢の状態観察について指導した.術後8ヶ月目に仕事復帰したが,術後10ヶ月目に左上腕の疼痛を自覚し,臨時でリハ科を受診.stage1のリンパ浮腫と診断された.本人からの聴取で,仕事復帰後も業務内容は術前と同様に,患者の身体的介助など上肢への負担が大きかったことが伺えた.そこで,評価及びリンパ浮腫の標準的治療としてスキンケアや体重管理,生活上の注意点等の指導に加え,術側上肢の使用を軽減した仕事上での動き方も具体的に指導した.仕事復帰3ヵ月(術後11ヶ月)目に再度評価し,シンプルドレナージ(以下SLD)の指導,スリーブの貸出を行い,術側上肢のセルフケアについて再教育を実施した.
【結果】
 経過の中で大きな変化点としては,仕事復帰後2ヶ月(術後10ヶ月)目の上腕周径が術前と比較して12mm増加,VASは安静時50・運動時80と疼痛増悪を認めた.
 仕事復帰後に自覚症状として術側上肢の疼痛や重だるさを感じ,すぐにリハ科を受診し,SLDの指導やスリーブの貸出,動作指導等を行ったことで,その後の経過としては上腕周径が術前-3mmと改善,疼痛はVAS安静時30,運動時50と軽減し,リンパ浮腫の発症を予防することができた.
【考察】
 続発性リンパ浮腫予防には,リハ科医師の診察,OTによる評価,指導のみならず患者自身の認識が重要である.本症例のように定期的な診察,評価・指導が患者への意識付けとなり,早期発見・治療へとつながった.また,評価を数値化・可視化し,患者へフィードバックすることが相乗効果になったと考える.今後も,さらなるリンパ浮腫に対する不安がいつでも相談できる環境を展開していきたい.