第56回日本作業療法学会

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ポスター

がん

[PF-4] ポスター:がん 4

2022年9月17日(土) 11:30 〜 12:30 ポスター会場 (イベントホール)

[PF-4-4] ポスター:がん 4骨髄同種移植後に対麻痺を発症し,アパシーを呈した患者に対する作業療法~野球に関連した作業がアパシー改善の一助となった一事例~

村口 詞紀1 (1公益社団法人 北海道勤労者医療協会 勤医協中央病院リハビリテーション部)

【はじめに】
成人型T細胞白血病リンパ腫を発症後,骨髄同種移植の手術目的で当院から他院へ転院.骨髄同種移植後に対麻痺を発症し,リハビリ目的で当院に転院.感情の起伏がなく,発話量も少ない状態でアパシーの状態となっていた症例に対し,作業療法として症例の興味ある活動を通して関わった.その後,症例からの発信が少しずつ増えていき,笑顔が見られるなど表情の変化が出てくるようになったため,今回の関わりについて以下に報告する.今回の発表にあたり対象者に書面を用いて十分な説明を行い,倫理的配慮に基づき同意を得た.
【症例紹介】
60代男性.X年1月成人型T細胞白血病リンパ腫と診断.当院で化学療法実施後に他院にてX年2月に骨髄同種移植を実施.移植後34日目にTh6からの感覚障害が出現し,対麻痺となった.肺炎も併発していたためリハビリと感染症治療を目的に当院へ転院された.転院時より前回入院時の本人とは様子が違い,活気がなく,発話もほとんど聞かれない状態であったため当院精神科医に相談した結果アパシーの診断となった.移植前は独居で生活され,独歩にてADL自立し,運転もされていた. 親族は遠方に住む実姉のみ.姉からの聞き取りでは病前は友人との交流も多く,社交的であり,釣りや野球を楽しんでいたが,足が動かなくなってからは口数が減っていたとの情報がある.
【作業療法評価】
コミュニケーション面では質問に対して発話は少なく,首振りでの返答が多い.周囲への関心も少なく,自ら行動しようとする様子はみられなかった.基本動作は全介助でリクライニング車椅子への移乗は二人介助.嚥下面は問題ないものの食欲不振にて経鼻栄養.MMTは右上肢4,左上肢3,両下肢0,体幹1で握力は右手19㎏,左手18㎏.下肢は両側ともに感覚脱失の状態で腱反射も消失している.仙骨に褥瘡があり,フェイススケール4の疼痛がみられ,リクライニング車椅子離床の耐久性は20分程度.認知機能はMMSE18点,HDS-R11点,FAB7点.興味チェックリストでは,野球,釣り,ボーリングに強く興味が出ていた.今後の希望については,本人はイメージできず,何も決められない状態であった.
【作業療法介入】
寝返り動作の自立,移乗時の介助量軽減,車椅子離床の耐久性向上,アパシーの改善を目指して介入を開始.病前まで社会人野球を行うなど,趣味が野球であったため,プログラムにキャッチボールを導入.キャッチボールはギャッジアップ座位や車椅子座位にて実施し,プロ野球中継が入る日は看護師の協力も得ながらテレビをつけてもらい,野球鑑賞ができるよう調整した.継続し続ける中で「水が飲みたい」,「果物が食べたい」など徐々に自発的な発話の増加や笑顔がみられるなど表情の変化がみられた.
【考察】
アパシーは感情鈍磨,無関心,社会性の低下,自発性の低下,興味,関心の低下などが起こると言われている.抑うつとの判別が難しい場合もあるが,今回のケースでは,感情の平板化や本人に深刻さがなく,苦痛が希薄な点からアパシーと考え,精神科医に相談し,診断に至った.アパシーに対する非薬物療法としては,以前から興味のあった趣味活動や運動療法などの活動が良いとされており,病前まで行っていた野球に関連する作業を通して関わった.内発的動機づけに繋がるように継続した運動療法や関わりを続けたことで感情の変化や自発性の増加がみられたことに繋がったと考える.