第56回日本作業療法学会

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がん

[PF-5] ポスター:がん 5

2022年9月17日(土) 12:30 〜 13:30 ポスター会場 (イベントホール)

[PF-5-5] ポスター:がん 5乳がん術後上肢リンパ浮腫15年罹患の症例に対する外来作業療法での一症例

蔵方 祐1安居院 麻衣1西村 麻衣子1 (1JR東京総合病院リハビリテーション科)

【はじめに】
上肢リンパ浮腫とは,主に乳がんの治療による手術や放射線治療の影響でリンパの流れが滞る病気である.適切な治療がされないと浮腫により,上肢の可動域制限や筋力低下を引き起こしQOLも低下させる.特に乳がんは女性の罹患数1位のがんであり,好発年齢は40歳代から60歳代と家庭や社会で様々な役割を持つ時期と重なっている.2016年度の診療報酬改定よりリンパ浮腫指導管理料の算定職種に作業療法士が追加された.当院でも,2020年度よりリンパ浮腫患者への作業療法の介入が開始した.今回,上肢のリンパ浮腫を発症して15年が経過している患者に対し,残存機能を活かした作業の提案をすることで機能の獲得に繋がり,患者の満足度が向上した一症例を報告する.対象者には,研究について十分な説明をおこない同意を得た.
【症例紹介】
70歳代女性.30年以上前に右乳がん全摘出,腋窩リンパ節郭清,放射線照射を受け,15年前にリンパ浮腫を発症.利き手は患側右上肢,日常生活は全て自立,仕事は会社経営.今回は,患側上肢の筋力トレーニングの確認目的にて外来作業療法の介入が開始.
【作業療法介入】
評価:右上肢のリンパ浮腫は国際リンパ学会ISL分類Ⅱ後期,上肢全体は皮膚の硬さがあり手背に圧痕が僅かに残る状態.右上肢手指に可動域制限はなく,MMT2~3,握力とピンチは測定困難であり筋力低下を認めた.Paper版ADOC評価(以下ADOC)は,食事の箸操作,衣服留め具の操作,書字,包丁操作に困難さを感じたと回答を得た.患者の主訴は「もう少し右手を使えるようにしたい」.今回は,患者の主訴と問題点を踏まえ機能改善を試み,残存機能を活かした動作の質の向上を図った.
方法:外来作業療法3ヶ月間隔週での介入を開始.プログラムは①自宅にておこなう圧迫下での自主トレーニングの指導,②ADL・IADL動作練習,③福祉用具の選定を中心に実施した.
【結果】
患側上肢手指のMMT・握力は改善されず,ラテラルピンチのみ1.0㎏まで向上した.質問指標の上肢障害評価表(以下DASH)は,運動機能41.6点から24.5点,選択項目スポーツ25点から0点と困難さと制限を感じる事が減少した.特にADOCで患者が困難と感じていた4項目(食事,衣服,書字,調理)を抜粋し,カナダ作業遂行測定(以下COPM)に沿って活動の数値化をおこなった結果,遂行度が4.0から8.8,満足度が3.5から7.5と向上した.
【考察】
大森の報告では,放射線治療後の晩期反応に放射線神経炎があり,運動麻痺が進行しさらに筋ポンプ作用が失われリンパ浮腫の悪化が生じる可能性があると言われている.症例も同様に放射線照射の影響により,身体機能の著しい改善に至らなかったと推測される.しかし,症例はリンパ浮腫を長期罹患の状態でも外来作業療法の介入にて困難さを感じていた動作の改善,質問指標の結果に変化が現れた.変化の要因は,外来開始時に面接にて問題点の抽出,目標の立案を共有し,患者が主体的に取り組めたことが挙げられる.面接時にADL・IADLを聴取し,具体的な生活動作に焦点を当てた事で残存機能と自助具を駆使して動作の改善を図った.その結果,満足度の向上に繋がったと示唆される.この結果は,吉澤によるリンパ浮腫患者の個々のライフスタイルに焦点を当てたテーラーメイド治療の介入の視点が大切と述べている内容に関連すると考える.
【結語】
今回,乳がん術後のリンパ浮腫を長期的に罹患の症例のように,外来作業療法での患者教育をおこなうことで動作の改善ができた.