第56回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

がん

[PF-6] ポスター:がん 6

2022年9月17日(土) 15:30 〜 16:30 ポスター会場 (イベントホール)

[PF-6-2] ポスター:がん 6COVID-19に罹患したが多職種との協業により在宅復帰が可能となった重度麻痺と失語症を合併した膠芽腫の1例

宮城 若子1普久原 朝規2西村 正彦3菅原 健一3石内 勝吾3 (1琉球大学病院 リハビリテーション部,2琉球大学病院 リハビリテーション科,3琉球大学大学院医学研究科脳神経外科学)

【背景】膠芽腫は,平均生存期間が1年半で5年生存率は約10%の予後不良の脳腫瘍である.手術切除に加え化学放射線治療を合わせた集合的治療が必要である.当院ではStuppレジメンに基づき治療を行っており,リハビリテーション(リハ)は原則手術前から開始し治療後速やかに在宅復帰が可能となるようカンファレンスなど多職種で情報共有を行っている.今回初発膠芽腫で,加療目的に入院した症例が治療中にCOVID-19に罹患し,一時治療が中断されたが隔離期間も脳血管リハを継続し初期治療を終え,面会制限の中,多職種と連携して家族と環境調整を行い在宅へ復帰した症例を経験したので以下に報告する.なお発表に関して書面で同意を得ている.
【症例情報】50代前半,女性.診断名は左頭頂葉膠芽腫(IDH wild type).現病歴は入院1週間前より右上肢より進行する片麻痺あり.当院へ精査加療目的にて入院となった.入院時のCT・MRI画像ではリング状造影効果を伴う径6㎝の腫瘍性病変を認め,腫瘍辺縁の内包後脚に径2㎝の出血を伴っていた.また腫瘍は前頭葉,側頭葉にも浸潤を認めた.入院前は夫と二人暮らし,仕事は介護職.術前入院時は,運動性失語は重度.Fugl Meyer Assessment(FMA)上肢0点,下肢4点,Karnofsky Performance Score(KPS)は30,Barthel Index(BI)5点,また構成障害を認めた.術後は運動性失語,麻痺もやや改善,<X+14日>FMA上肢27点,下肢14点,BI50点.<X+20日>化学療法と放射線療法を開始した.<X+28日>COVID-19発症し,脳血管リハと腫瘍の治療は一時中断となった.<X+33日>個室管理で発語量も減り易怒的,臥床傾向で介助量も増え看護師も対応に難渋しており,介助方法も含め看護師と協力して日中の離床,食事時のセッティングやトイレ誘導の指導を行った.リハ介入の方法を相談し,理学療法と作業療法は直接訓練,言語療法はリモートで訓練を再開した.徐々に活気が増え介助量も軽減した.<X+48日>隔離解除され通常訓練可能となり,腫瘍の治療も再開.コロナ禍で院内は家族面会禁止,外出禁止であり,家族との在宅調整はテレビ電話などの電子媒体を用いて自宅内のベッドの位置や移動の導線,ADL状況などの環境調整を行った.さらにインフォームドコンセント時に,病棟の許可を得て直接,家族や介護支援専門員とADL動作の指導や,腫瘍の影響による介助量の変動についての説明を行った.
【結果】<X+110日>FMA上肢23点,下肢17点,運動性失語,構成障害は残存した.KPS60点,BI60点,退院時の在宅での生活は,車いす自走を想定し家族指導を行った.また,退院後の訪問リハを導入し,在宅生活でのADL動作の調整を行えるようにした.治療の中断時期があり,通常より長期の入院となったが治療を終え在宅復帰となった.
【考察】退院支援として退院調整看護師と脳外科病棟看護師とリハ,主治医とカンファレンスを行っている.今回はコロナ禍での面会禁止,外出禁止の中,重度の運動麻痺と失語症を合併している症例は,家族指導も不十分となり在宅環境の調整が難航することが予測されていたため,多職種との協業は非常に重要であった.神経膠腫の初期治療後の在宅移行率は高いと報告されており,本症例は入院中COVID-19に罹患し通常よりも入院期間が長くなったが,速やかに退院へと繋げることが出来た.さらにCOVID-19罹患中は,病棟看護師と連携してリハの介入を早急に行うことができた.作業療法を行うにあたり,膠芽腫という進行かつ症状が変動するという疾患特徴を考慮し,多職種と連携は最も重要であり,日々の状況を把握した上で適切な介入と調整が必要であると考えられた.