第56回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

精神障害

[PH-1] ポスター:精神障害 1

2022年9月16日(金) 12:00 〜 13:00 ポスター会場 (イベントホール)

[PH-1-1] ポスター:精神障害 1精神科病院でADOCを利用して希望を引き出し実現した事例

あなたの希望を叶えますプロジェクト

天野 今日子1先納 英実1上江洲 聖2 (1医療法人 社団 緑誠会 光の丘病院 リハビリテーション課,2琉球リハビリテーション学院)

【はじめに】
当院は単科の精神科病院である.COVID-19の流行は,入院生活という限られた選択肢の中で更に制限が増え,作業療法(以下,OT)は単一病棟内で集団療法のみ実施となった.患者の希望を集団療法の中に取り入れようとしたが,具体的に引きだすことは難しかった.そこで作業選択意思決定支援ソフト (以下,ADOC) Paper版を用いた介入をした.結果,希望を引き出すことが出来た.感染対策のため集団療法で実施することが難しく,希望を叶える個別プロジェクトを病棟スタッフと発起した.若干の知見を得たため考察を加え以下に報告する.なお,本報告は当院の個人情報保護規則に準じた倫理審査を受け承認されている.
【方法・結果】
A氏,80代後半,女性.妄想型統合失調症,認知症.入院期間6年.被害妄想で入院.その後,症状は落ち着いたが,認知症症状が進行した.OTでは花の塗り絵を好んで行っていたが,活動内容や準備物を忘れる場面がしばしば観察された.希望を聞いても,「別にない」と話した.そこで主体性を引き出すためにADOCで面接したところ,「生け花」を選択した.その際,「16歳から習っていた」と話し身振り手振りで花の生け方を教えてくれた.希望を叶える当日,普段は見られない真剣な表情で花のバランスを微調整した.前日の記憶を忘れてしまうA氏が,次の日,「私がしたんよ」と嬉しそうに話した.後日,このことを家族に報告すると喜ばれた.更に看護師から生けた花と撮った写真を本人にプレゼントする提案があった.満足度の再評価結果は3点→5点.
B氏,60代後半,女性,妄想型統合失調症.入院期間32年.短大卒業後,家事を手伝っていたが服薬の自己中断から症状再燃して入院した.集中できる活動と環境を提供していたが,OTの時間はぼんやりしている事が多く多飲水が目立った.希望を聞いても,「クッキング」と答えるが具体的には話さなかった.そこでADOCを使用したところ,本人が一番重要な作業として「パン作り」を選択した.ぼんやりしている日もパン作りの話をすると,「いつ作るのかな?」と言い作り方をスタッフに教えてくれた. 希望を叶える当日,「パンを作るのは30年ぶり」と話した.OTの作業活動では確認せず失敗することがあるが,慎重に計量しレシピを見返し進めた.パンの成形が終わると安堵の表情で焼き上がると笑顔.焼き立てのパンを一緒に食べながら母との思い出や,「料理学校の先生になりたくて」と自分の夢を語った.その後,「今度はパイを作ろうよ」と自分の希望を話すようになった.満足度の再評価結果は1点→5点.
【考察】
今回,ADOCを用い,患者の希望を叶えていくプロジェクトを病棟スタッフと協業した.イラストを用いたことで作業が可視化され,患者の希望,その人の歴史や背景,大切にしていることを引き出しやすかったと考える.また希望を叶えていく過程で患者とスタッフが笑顔を共有し,スタッフ同士も喜びを分かち合えた.高野(2018)は「患者の目標を明らかにし,患者に寄り添って喜びを共有化することがスタッフのやりがいにつながる.さらに信頼のおける医療チームメンバーが達成感の確認を行うことでやりがいが認識されていく」とある.また,Kylma(2006)は,「希望の促進は,患者およびそれを支える看護師双方ともにきわめて重要である」とある.今回のプロジェクトを通して,患者のやりたいことを見つけ出し希望を叶えていくことは,患者と治療者双方の達成感につながっていくことが示唆された.課題としては,個別に希望を叶えるプロジェクトの持続可能性である.その人らしい生活やQOLに繋がっていくように,効果判定も含めて今後も模索したい.