第56回日本作業療法学会

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ポスター

精神障害

[PH-1] ポスター:精神障害 1

Fri. Sep 16, 2022 12:00 PM - 1:00 PM ポスター会場 (イベントホール)

[PH-1-3] ポスター:精神障害 1COVID-19流行と重症筋無力症によりうつ病を呈した一例

集団から個別活動につなげたアプローチ

小松 瑞生1米田 貢2菊池 ゆひ2西 悦子1麦井 直樹1 (1金沢大学附属病院リハビリテーション部,2金沢大学医薬保健研究域保健学系)

【はじめに】今回,COVID-19の流行に加え,重症筋無力症(MG)の発症を機にうつ病を呈した患者に対し,作業療法(OT)を通じて前向きな思考への変化を促し,自宅退院への支援を行った.本発表に際し本人の同意を得た.
【症例紹介】80代前半女性.X年Y月Z日当院精神科に大うつ病性障害の診断で任意入院となった.
現病歴:独居. X-6年より不安を訴え,外来通院し抗不安薬を服用しながらも,趣味のジムやスポーツ観戦をしていた.X-1年COVID-19の流行後,食欲が低下し半年で体重が7㎏減少した.同年Y-9月に複視,右眼瞼下垂が出現し,MGの診断で当院脳神経内科に1か月間入院した.退院後も不安は続き,抑うつ状態を呈し今回の入院となった.
【入院経過】治療方針:薬物療法の調整によるうつ症状の改善.入院時「何でも不安になる.集中できない」と訴えた.OTはZ+11日より作業意欲の向上,余暇活動の拡大を目的に開始.
【初期評価】OT導入時(1週目)に他患の作業の様子を見て「こんな細かいことはできない」と落涙した.病棟では読書やスポーツ観戦は数分しか続かなかった.一方で4-5人での軽体操や脳活プログラムに30分ほど参加し,「久しぶりに笑った」という日もあった.筋力は頚前屈後屈,肩関節屈曲外転MMT4と近位筋の低下がみられた.ADLはBarthel Index100点であったが,MG-ADLスコアは7/24点で,食事の疲労とむせ,体動時の息切れ,立ち上がり時の腕の使用を認めた.観察から他者と関わることが好きな様子だったが,本人は「嫌われたのではないか」と後ろ向きの思考が目立った.また,手洗いと消毒を頻回に行っていた.
【作業療法計画】
問題点:前向きな思考が限定的で周囲の状況変化に対応できず,症状の増悪とともに普段の生活を楽しめない.
短期目標:OT参加を通じて規則的な生活リズムの改善と自発的な活動に取り組むこと.
長期目標:前向きな思考が自身の生活に良いことを認識し,状態に応じて活動を継続できること.
プログラム:導入時は散歩や体操など負荷の少ない運動を取り入れた集団プログラム,参加が安定したころより作業活動(かぎ針編み)を取り入れ,集中力の改善を目指す.あわせて生活指導を行う.
【介入経過】経過(2-3週目):集団プログラムに30分参加し,その後は個別プログラムとした.「何かしたい」と発言があり,馴染みのあるかぎ針編みに導入した.作業の実施時間が30分程に増え,病棟での生活上の問題は減少し,テレビを見るようになった.過剰な消毒は少なくなった.他患の退院に対して「私も追い出されてしまう」と悲観的な発言が時々あった.退院準備(5-7週目):集団プログラムと作業は継続し,2時間程取り組めた.病棟でも読書,園芸などを自ら参加し,園芸を「自分もまた始めたい」と話した.服薬自己管理が開始されても顕著な不安を認めなかった.退院後は週1回の訪問看護でサポートする方針となった.ADLに著変はないが,ドライヤースタンドを提案するなどMGに対する生活指導を併せて行った.また,周囲の人との関わりを維持するため,娘家族や地域の人と過ごす時間をつくることを提案した.本人からは「辛いことがあっても乗り切れるようになってきた」「帰ってみないと分からないね」と前向きな発言がみられるようになった.
【最終評価および考察】COVID-19により制限されていた他者との交流が集団活動により再開でき,元来の前向きな思考を引き出すことで,個別活動,病棟生活での自主的な余暇活動の増加につながり,退院後の不安軽減につながったと考える. MGに対する生活指導や訓練は今後一層必要になると考えられるため,医療,介護サービスを含めて継続的な支援が必要である.