第56回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

精神障害

[PH-3] ポスター:精神障害 3

2022年9月16日(金) 15:00 〜 16:00 ポスター会場 (イベントホール)

[PH-3-2] ポスター:精神障害 3精神科リエゾンチームにおける精神科作業療法の有用性

急性骨髄性白血病患者の事例報告

二田 未来1早坂 友成12吉田 信子1今村 弥生1渡邊 衡一郎1 (1杏林大学医学部付属病院,2杏林大学保健学部作業療法学科)

【目的】精神科リエゾンチーム(リエゾンチーム)における作業療法の報告は少なく,その実践内容についても十分に検討されていない.本報告では,リエゾンチームによる急性骨髄性白血病患者の支援について紹介し,精神科作業療法(OT)による個別介入の有用性を検討した.発表にあたり,本人に趣旨を口頭にて説明し同意を得た.
【症例】70歳代女性,急性骨髄性白血病,精神科診断は適応障害.同居家族は夫と息子.X年汎血球減少にて当院を紹介受診し緊急入院.寛解導入療法での改善乏しく,造血幹細胞移植の方針となり不安や抑うつがみられた.息子からストレスケアの希望があり,リエゾンチーム介入とともに個別OTを開始した.
【チーム活動】週1回のカンファレンスと回診.精神科医,看護師(Ns),作業療法士(OTR)で構成.OTは週2回(30分程度/回),無菌室への持ち込み物品は制限.
【OT初期評価】主訴:話を聴いてもらいたい.心身状況:ADL自立,汎血球減少のため適宜輸血施行,Nsより環境への過剰適応の指摘.活動(趣味):精神疾患対象の作業所にて20年ボランティアに従事,編み物や刺繍等の手芸や読書が趣味で私物は手作り小物多数,定期的に趣味サークル実施.嗜好:実用的で見栄えのよい作品を好み,単純で繰り返しの作業は苦手.禁忌事項:出血を伴う怪我.OT目標:精神機能の維持,気分転換,行動評価.
【経過】前期:第62病日より開始した革のキーホルダー作りでは,細部に過度な執着がみられた.第66病日より個室無菌室へ転床し,病棟スタッフへの不満や孤独感の表出があった.しかし,点滴棒に吊るした完成作品を他者に賞賛され喜び,改めて創作活動が好きだと述べた.第80病日からは造血幹細胞移植後の拒絶反応によりOT実施困難となったが,症例は無理に継続を希望したため,今後の生活を考え体調不良時は休養の必要性を共有した.OTでの病棟スタッフへの不満の表出は継続し,リエゾンチーム面接においてはプライドの高さや完璧主義的な傾向が観察されたため多職種で共有した.第90病日より再開した革紐作品は理解に難渋したが完成でき,材料や作成の工夫についてOTRに述べた.後期:第104病日より個室へ移動しエコクラフトの鍋敷き作品を開始.手順の混乱やピンチ力低下によりOTRが補助し,曜日の誤認もみられた.第118病日の年賀状作成では,苦手な作業を自覚した.退院間近には体力低下を理由に創作活動実施に消極的となり教本を介した会話のみ行った.OT集結期では,苦手なことを知ったのは残念だったが,病気を忘れられ楽しみもできたと述べ,第168病日に退院した.
【考察】死を想起する急性疾患に罹患し,特殊な環境下で長期にわたる治療は,不安や孤独を惹起する.症例は過去に精神疾患の既往はないが,こだわりの強さやプライドの高さ,完璧主義的側面によって,不安に拍車がかかり,病棟スタッフとのコミュニケーションの軋轢に繋がっているとリエゾンチーム面接で評価された.人生経験を積み,社会的な役割を担ってきた症例に,創作的活動という日常の作業を用いた非言語的な介入によって,孤独感の軽減,自尊感情の維持,心身機能評価,陰性感情の昇華に寄与したと考えた.感染対策も厳密に実施し,移植医療による心身の負担に配慮し,かつ本人の好みも勘案しながら,作業を短時間に構造化し,作品は実用的で見栄えする,家族やスタッフから良好な評価を得やすいものを選択する必要があると考えた.この度の経験から,今後も精神科リエゾンチーム医療の中のOTRの適応について検討していきたい.