第56回日本作業療法学会

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ポスター

精神障害

[PH-7] ポスター:精神障害 7

Sat. Sep 17, 2022 1:30 PM - 2:30 PM ポスター会場 (イベントホール)

[PH-7-3] Clinical utility of positive occupation-based practices using an estimation system in APO-15―case series―

ケースシリーズ

後藤 一樹1野口 卓也2 (1医療法人日明会 日明病院作業療法室,2公益財団法人慈圭会 慈圭病院生活療法課)

【緒言】作業療法には,クライエントの幸福に貢献する支援にポジティブ作業に根ざした実践(Positive Occupation-Based Practice,以下POBP)がある.POBPとは,人間の幸福を高めるポジティブ作業を学び,それを実生活に習慣化していく支援方法である.POBPの適用には,ポジティブ作業評価(Assessment of Positive Occupation 15,以下APO-15)が使用される.APO-15には,クライエントのポジティブ作業への関与状態を5段階評価し,各ランクの状態に応じた幸福を高めるための介入指針を作業療法士に提示できる推定システムがあるが,それを活用したPOBPの有用性は未検討である.本報の目的は,推定システムを活用したPOBPの有用性について,2名の精神障害者を対象に後方視的に検討することである.本報は当院倫理審査委員会の承認(03-01),事例の同意を得て報告している.利益相反はない.
【対象】A氏,40代の女性.自閉症スペクトラム障害と統合失調症を呈している.B氏,10代の女性.適応障害を呈しており,愛着障害の疑いがある.
【評価・介入計画】初回評価の結果,A氏は障害を抱えた自身を過度に否定的に捉えた状態であった.B氏は孤独感が強く,自己否定的な言動と自傷行為がよく見られる状態であった.APO-15の結果は,A氏(42点,ランク2〔弱い関与群〕),B氏(43点,ランク2〔弱い関与群〕)を示した.これらの結果を基に,推定システムが推奨するポジティブ作業を各クライエントと話し合い,POBPで使用する学習教材について検討した.その結果,学習教材は5種類(ストレスと作業,良いところを探す,笑う門には福来る,真剣遊ぶ,一貫性を持つ)に決定された.
【支援経過】
A氏:1期〔開始〜4週間〕ストレス軽減を目的に「ストレスと作業」を学習し,他者の手助けを可能な範囲で行うことに取り組んだ.2期〔5〜8週間〕出来事の主観的解釈を建設的にすることを目的に「良いところを探す」を学習し,その日の生活で良かったことを探すことに取り組んだ.3期〔10〜14週間〕楽しさの気分を増幅させることを目的に「笑う門には福来る」を学習し,笑顔になれる作業に取り組んだ.
B氏:1期〔開始〜5週間〕没頭できる作業経験を通じ,肯定的な気分になれることを目的に「真剣に遊ぶ」を学習し,折り紙の作品作りに取り組んだ.2期〔5〜8週間〕1期での取り組みを継続し,日々の生活の中で読書を行うことに取り組んだ.3期〔10〜15週間〕有限実行の経験から自己信頼感を高めることを目的に「一貫性を持つ」を学習し,知人への贈り物として折り紙の作品作りに取り組んだ.
【結果・考察】本実践の結果,2名の対象者は14〜15週間の間でポジティブ作業への関与状態が改善し,幸福の促進が確認された(A氏:46点,ランク3〔中程度の関与群〕,B氏:45点,ランク3〔中程度の関与群〕).POBP参加後の感想では,A氏は「以前より前向きな気持ちで日々を送れた.病気を少し受け入れられるようになった」,B氏は「POBPに参加し,自分を褒めたり,目標を持って生活できるようになった」などの肯定的な感想を語った.今回,本実践を通じて各対象者に肯定的な影響を与えた理由は,POBPで使用する学習教材の選定に対し,推定システムから推奨される幸福を促進する作業を介入指針として参考にできたことが挙げられる.つまり推定システムを活用したPOBPは,クライエントの状態に適したポジティブ作業の経験学習を支援できるため,幸福の促進に効率的に貢献できる可能性があると考えられる.