第56回日本作業療法学会

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ポスター

精神障害

[PH-8] ポスター:精神障害 8

Sat. Sep 17, 2022 2:30 PM - 3:30 PM ポスター会場 (イベントホール)

[PH-8-5] ポスター:精神障害 8精神科長期入院統合失調症者の認知機能と認知バイアスおよび精神症状の関連性

春原 るみ123市川 翔平3齊藤 大貴3田山 愛3小林 正義2 (1長野保健医療大学保健科学部,2信州大学大学院総合医理工学研究科,3上松病院)

背景
 精神科の長期入院患者は僅かに減少傾向にあるが,65歳以上の長期入院患者はむしろ増加しており,その65%を統合失調症が占めている(厚生労働省,2014).長期入院による認知機能の低下が指摘されているが,認知機能と認知バイアス,精神症状を同時測定した研究は少ない.本研究の目的は,長期入院の統合失調症患者の認知機能と認知バイアス,精神症状の関連性を探索することである.
対象と方法
対象は統合失調症と診断され,精神科病院に1年以上入院を継続し作業療法が実施されている患者のうち,研究参加に同意した者であった.基本情報として年齢,性別,入院回数,累積入院期間,抗精神病薬の服用量(Chlorpromazine 換算)をカルテおよび面接から収集した.参加者の認知機能(MoCA-J),精神状態(PANSS),認知バイアス(BCIS),全体的機能(GAF)を測定し,変数間のスピアマンの順位相関係数(ρ)を求めた.統計解析はBellCurve for Excel(version 3.22)を使用し有意水準は5%とした.本研究は所属する大学と病院の倫理委員会の承認を得て実施した.
結果
参加した患者は16名(男/女=10/6)であった.参加者の年齢[平均(標準偏差)]は74.7(5.4)歳,発症年齢は24.2(12.1)歳,罹患期間は50.5(14.1)年,入院回数は4.9(3.3)回,累積入院期間は33.4(18.3)年,服薬量は504.9(275.2)mg/dayであった.MoCA-Jは12.69(4.83),PANSSは陽性症状19.13(4.96),陰性症状25.81(5.61),総合精神病理48.50(8.06)であった.BCISは自己内省性10.67(2.13),自己確信性6.87(2.03),総合得点3.8(2.76 )であった.GAFは41.06(15.87)であった.年齢は罹病期間(ρ=0.54, p = 0.03),累積入院期間(ρ=0.78, p < 0.001)と正の相関があり,罹病期間と累積入院期間は強い正の相関(ρ=0.74, p < 0.001)を示したが,これらの変数とMoCA-Jの相関はみられなかった.PANSS総合精神病理は入院回数と正の相関を認めた(ρ=0.53, p = 0.04).尺度間の相関はGAFがBCISの自己内省性(ρ=-0.53, p = 0.04)と総合点(ρ=-0.52, p = 0.048)とそれぞれ負の相関を示したが,その他の尺度間には相関関係はみられなかった.
考察
MoCA-Jの平均得点はカットオフの25/26点を大きく下回り,長期入院患者は顕著な認知機能障害を有していることが判明した.精神症状はごく軽度〜軽度の陽性症状,軽度〜中等度の陰性症状,軽度の総合精神病理と判定され,院内寛解の状態像を表す結果と思われた.BCISの得点範囲は,自己内省性が0−27,自己確信性が0−18,総合得点が0−27であるが,参加者の平均得点は何れも低水準にあり,慢性経過に伴う内的体験の不全感が推測される.MoCA-Jと各尺度との相関関係は認められず,長期入院統合失調症患者の認知機能障害は,精神症状や認知バイアスとは直接関連のない,加齢による影響を反映した状態像と考えられる.最近,精神科療養病棟に長期入院している統合失調症患者の認知機能障害に対するメタ認知トレーニング(MCT)の有効性が報告されている(Fujii et al., 2021).今後,例数を追加すると共に,MCTを作業療法のプログラムに追加し,認知機能改善効果を検証していきたい.