第56回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

精神障害

[PH-8] ポスター:精神障害 8

2022年9月17日(土) 14:30 〜 15:30 ポスター会場 (イベントホール)

[PH-8-6] ポスター:精神障害 8認知課題に伴う手掌部発汗反応と前頭前野脳血流動態―統合失調症患者の応対特性

竹中 愛美12小林 正義2百瀬 英哉3河埜 康二郎4島田 岳1 (1医療法人清泰会メンタルサポートそよかぜ病院,2信州大学大学院医学系研究科,3株式会社スキノス,4医療法人友愛会千曲荘病院)

目的 
精神疾患のバイオマーカーとして確立されたものはなく,血液,脳脊髄液,脳神経画像,神経生理学的検査,認知機能検査などを指標とする研究が推進されている.本研究の目的は認知課題に伴う手掌部発汗反応と前頭前野酸素化ヘモグロビン濃度変化(oxy-Hb)を同時測定し,統合失調症患者の応対特性を探索することである.手掌部(精神性)発汗は情動反応を反映し,前頭前野oxy-Hbは認知や思考の活動指標となることが知られている.統合失調症に特徴的な応対特性を見いだせれば,これらのパラメータを精神疾患の診断や治療効果判定の一助として活用できる可能性がある.
方法
寛解状態にある成人統合失調症患者(入院10名,外来1名)を対象とした.手掌部発汗はウェアラブル発汗センサ(SKW-1000,SKINOS)のプローブを被検者の非利き手拇指に,前頭前野oxy-Hbは携帯型脳活動計測装置(HOT-2000,NeU)のヘッドセットを前額部に装着し,課題遂行時の手掌部発汗と前頭前野oxy-Hbを同時測定した.認知課題としてJapanese version of Montreal Cognitive Assessment(MoCA-J)を実施し,解析では安静時をベースラインとし,MoCA-Jの認知領域を16項目に分け反応量を定量評価した.本研究は産学共創プラットフォーム(OPERA)の研究課題として株式会社スキノスと共同実施し,本学倫理委員会の承認を得た.
結果
参加者は11名(男性6名,51.45±8.9歳)で,平均罹病期間は10,709±2150日であった.手掌部発汗(mg/cm2・min)は,遅延再生(0.41±0.56),記憶第2試行(0.37±0.46),復唱第1課題(0.36±0.45)の順に多く,時計描画(0.23±0.22),立方体描画(0.26±0.25),命名(0.29±0.30)では少ない傾向を示した.前頭前野oxy-Hb(μM・mm)は,Trail making test(TMT,-0.028±1.54),時計描画(-0.029±1.46),立方体描画(-0.045±1.53)の順に多く,抽象概念(-0.27±1.62),語想起(-0.25±1.71),復唱第2課題(-0.17±1.68)では少ない傾向を示した.記憶第2試行と遅延再生では手掌部発汗と前頭前野oxy-Hbはともに増加し,数字順唱と語想起では手掌部発汗と前頭前野oxy-Hbはともに減少する傾向を示した.
考察
参加者のMoCA-Jの平均は24点でカットオフ25/26を下回り,8名に認知機能の低下を認めた.手掌部発汗と前頭前野oxy-Hbの反応順位は課題によって異なり,相互の大小関係も一様ではなかった.手掌部発汗が多い課題は記憶と再生,ワーキングメモリを要する課題であった.これらは認知機能障害のある統合失調症患者にとっては苦手な課題であり,手掌部発汗の増加は患者の不安・緊張感の増加に関連する反応と考えられる.一方,前頭前野oxy-Hbが多い課題は,TMT,時計描画,立方体描画であった.これらは紙筆検査であり,認知課題による前頭前野の機能活性に加え,筆記動作による一次運動野の機能活性がoxy-Hbの増加を促進させたと推測される.抽象概念を問う課題では前頭前野oxy-Hbは顕著な低下を示し,統合失調症患者にみられる思考の不全感や理解力の低下と関連する反応と考えられる.また,手掌部発汗と前頭前野oxy-Hbがともに増加した記憶第2試行と遅延再生は,情動系と認知系の機能活性を伴う難易度の高い課題と思われる.今後はサンプル数を増やし,健常者との比較試験を行う予定である.