[PH-9-1] ポスター:精神障害 9自殺企図経験をもつ初発統合失調症患者に対する作業療法ー事例報告ー
【はじめに】
我が国の15-39歳の死因第1位は自殺であり(厚労省,2020),Hawtonら(2008)は自殺の背景としてコミュニケーション能力の未熟さを指摘している.今回,自殺企図した統合失調症患者の作業療法(以下OT)においてコミュニケーション能力が改善した.このOT介入について検討し報告する.尚,発表に際し,症例の同意を書面で得た.
【事例紹介】
A氏は10代後半の男性で,家族は両親と妹で希薄な家族関係だった.小学5年生頃から身体的不調が続き,中学2年生時に起立性調節障害と診断された.不登校であったため通信制高校に進学したが,X年Y月に不安・焦燥感により精神科受診した.WAIS-ⅢはIQ97だった.X年Y+3月,大量服薬により入院し大うつ病性障害と診断されOT開始した.退院後もOTを継続した.X年Y+7月,再び大量服薬により入院し,統合失調症と診断され抗精神病薬が処方された.入院2日目に生活リズムの確立を目的にOT開始した.入院時陽性・陰性症状評価尺度(以下PANSS)は77点,薬物量はOT開始から退院まで変化なかった.
【OT評価と方針】
前回入院時OTでは独力で正確に作品を仕上げ,会話はほとんどなかった.初回面接で「復学できず明日が見えなかったから死のうと思った」と述べ,他は話そうとしなかった.自殺念慮,漠然とした不安・焦燥感を認めた.入院後は起立性調節障害のため倦怠感等の身体的不調を認め,朝は臥床していることが多かった.A氏の問題点は,コミュニケーションが自発的にとれないことと臥床傾向の2点であった.発症後間もないため侵襲を避け,A氏のコミュニケーションの機会を計画し,A氏と起立性調節障害改善のため生活リズムを整え,運動を習慣づけることを目標共有した.
【介入経過】
午後からパラレルOTでクラフトを週3回,集団OTでストレッチを週2回行うことに加え,個別OTで運動プログラムを毎日実施し,週1回振り返りをした.運動プログラムは,ストレッチと下肢筋力トレーニングとした.振り返りは,できた運動とその日の体調・運動後の疲労感のVAS形式のチェック表を使用した.A氏は計画通りOT参加し,作業遂行に問題はないが,OT中の会話はなく,チェック表は記入していた.振り返りでは,記入済みチェック表に基づき体調や疲労感についてクローズからオープン形式へ段階付けて質問した.当初は質問のみ答えたが,徐々に質問がなくても体調や疲労感,さらには精神的な不調について自発的に話すようになった.
【結果】
振り返りで,適切な内容を自発的に話すようになり,「復学のために週1日デイケアに通い,週3日図書館で勉強しようと思う」と退院後の希望を語った.X年Y+10月退院時PANSSは65点(開始時から陰性症状尺度-4点,総合精神病理尺度-8点)であった.
【考察】
A氏の自殺企図は,学童期から青年期の社会経験不足と希薄な家族関係のため,コミュニケーションの経験が少なく,困ったときに相談する等の対処方法がなかったことも誘因と考えられた.A氏は初発の統合失調症例であり,不用意な介入なく安全感を維持することが重要(小林ら,2014)であった.そのため共有目標は身体症状の軽減のみとし,コミュニケーションの経験にはまず自記式のチェック表を使用した.あえてコミュニケーションを目標とせず,安全に段階的な経験を通じて成功体験を積み,A氏は自発的に心身の不調を語れるようになったと考える.退院時の精神症状の改善と自発的な発言量の増加,前向きな希望の語りは,OTが貢献した可能性がある.
我が国の15-39歳の死因第1位は自殺であり(厚労省,2020),Hawtonら(2008)は自殺の背景としてコミュニケーション能力の未熟さを指摘している.今回,自殺企図した統合失調症患者の作業療法(以下OT)においてコミュニケーション能力が改善した.このOT介入について検討し報告する.尚,発表に際し,症例の同意を書面で得た.
【事例紹介】
A氏は10代後半の男性で,家族は両親と妹で希薄な家族関係だった.小学5年生頃から身体的不調が続き,中学2年生時に起立性調節障害と診断された.不登校であったため通信制高校に進学したが,X年Y月に不安・焦燥感により精神科受診した.WAIS-ⅢはIQ97だった.X年Y+3月,大量服薬により入院し大うつ病性障害と診断されOT開始した.退院後もOTを継続した.X年Y+7月,再び大量服薬により入院し,統合失調症と診断され抗精神病薬が処方された.入院2日目に生活リズムの確立を目的にOT開始した.入院時陽性・陰性症状評価尺度(以下PANSS)は77点,薬物量はOT開始から退院まで変化なかった.
【OT評価と方針】
前回入院時OTでは独力で正確に作品を仕上げ,会話はほとんどなかった.初回面接で「復学できず明日が見えなかったから死のうと思った」と述べ,他は話そうとしなかった.自殺念慮,漠然とした不安・焦燥感を認めた.入院後は起立性調節障害のため倦怠感等の身体的不調を認め,朝は臥床していることが多かった.A氏の問題点は,コミュニケーションが自発的にとれないことと臥床傾向の2点であった.発症後間もないため侵襲を避け,A氏のコミュニケーションの機会を計画し,A氏と起立性調節障害改善のため生活リズムを整え,運動を習慣づけることを目標共有した.
【介入経過】
午後からパラレルOTでクラフトを週3回,集団OTでストレッチを週2回行うことに加え,個別OTで運動プログラムを毎日実施し,週1回振り返りをした.運動プログラムは,ストレッチと下肢筋力トレーニングとした.振り返りは,できた運動とその日の体調・運動後の疲労感のVAS形式のチェック表を使用した.A氏は計画通りOT参加し,作業遂行に問題はないが,OT中の会話はなく,チェック表は記入していた.振り返りでは,記入済みチェック表に基づき体調や疲労感についてクローズからオープン形式へ段階付けて質問した.当初は質問のみ答えたが,徐々に質問がなくても体調や疲労感,さらには精神的な不調について自発的に話すようになった.
【結果】
振り返りで,適切な内容を自発的に話すようになり,「復学のために週1日デイケアに通い,週3日図書館で勉強しようと思う」と退院後の希望を語った.X年Y+10月退院時PANSSは65点(開始時から陰性症状尺度-4点,総合精神病理尺度-8点)であった.
【考察】
A氏の自殺企図は,学童期から青年期の社会経験不足と希薄な家族関係のため,コミュニケーションの経験が少なく,困ったときに相談する等の対処方法がなかったことも誘因と考えられた.A氏は初発の統合失調症例であり,不用意な介入なく安全感を維持することが重要(小林ら,2014)であった.そのため共有目標は身体症状の軽減のみとし,コミュニケーションの経験にはまず自記式のチェック表を使用した.あえてコミュニケーションを目標とせず,安全に段階的な経験を通じて成功体験を積み,A氏は自発的に心身の不調を語れるようになったと考える.退院時の精神症状の改善と自発的な発言量の増加,前向きな希望の語りは,OTが貢献した可能性がある.