[PH-9-2] ポスター:精神障害 9作業を手段とした関わりの中で拒否的なケアが改善された一例
負の時間の共有から得たもの
【はじめに】
情緒が著しく変動する認知機能障害を呈したパーキンソン病のクライエントを担当する機会を得た.クライエントとの関わり方を模索した2年間にわたる作業療法経過を記録し,考察したため報告する.なお,報告にあたり本人・御家族へ説明し同意を得ている.
【症例紹介】
T氏,70歳代後半の女性,認知症を合併するパーキンソン病,X-12年まで在宅で生活していたが,徐々に在宅生活困難となりX年に当院に療養目的にて入院となった.Hoehn&Yahr 重症度分類StageⅤであり,典型的なパーキンソン症状に加え,認知および情緒の著しい変動がみられた.状態の良い時は穏やかに過ごすが,妄想・抑うつ発言を発端にせん妄に近い状態へと移行する場面がみられた.本人の希望は聴取困難であり,家族の希望は「楽しみを持って入院してほしい」であった.
【作業療法経過】
1期:楽しみや充実感を感じられる作業を模索した時期(入院時~8カ月)
作業歴や興味関心チェックリストを活用し作業活動を提供するが「こんな体じゃ出来ません」等と抑うつ的な発言が聞かれた.時間をかけ訴えを傾聴しながら,病前からの好みの歌や花を中心に作業提供を行った.好みの歌を聴くと自然に口ずさみ,花に関連させた貼り絵はわずかな励ましで作業を始めた.活動を継続していく過程の中で,心気的な発言も聞かれたが「楽しいですね」と表情が綻ぶようになった.貼り絵は毎日行う中で「習慣・能動・没頭・要求・情緒的交流」できる活動となった.
2期:進行期における作業療法を模索した時期(8カ月~18カ月)
徐々にせん妄症状が連続して確認される時間が増え,日常的なケアに対する拒否が多くなった.作業活動では自発的に参加する一方,不快と捉え拒否する場面がみられ,症状が安定せず関わり方に頭を悩ませた.介入時間の変更や作業内容を簡素化したが,期待するような成果は得られなかった.筆者はこの状況に留まり,調子が悪い時は感覚レベルの関わり時間とした.ことばやからだの表情(山根2005)から意思を汲み取ることに重きを置き,無理に侵襲しない時間を設けたことで,症状が安定しない中でも微細な表出や意思の変化がすでに存在していたことを認識した.
3期:作業を介した関わりの中で小さな意思の変化を辿った時期(18カ月~現在に至る24カ月)
日常的なケアに一貫として拒否を示していた.整容動作全介助は侵襲性が高く拒否を示しやすいと推測し,実際に介入してみるが継続的に協力を得ることは難しかった.日内変動表を作成し介助に対する非言語的な要素を観察した.視線や表情,自発的な四肢の動きで意思表出を確認していくと,協力姿勢を示しやすい時間帯をみつけた.時間的な配慮を行うことで整容動作は継続的に協力姿勢が得られたことに加え,作業活動では自発的に取り組み笑顔や他者との交流を楽しむ様子が増えた.
【考察】
2年間の経過の中で作業は継続され,好意的に作業参加できる時間・できない時間が存在し,双方にはクライエントの意思が働いていることを筆者は認識した.不穏や拒否の表出から「今は関わるべきでない」「介入できない時間」と思い込み,頭を悩ませた期間はクライエントに対して意思の汲み取りが不十分であったと捉えることができる.拒否していたケアに協力的となった背景には,長期にわたって築いた関係性や関わり方はもちろんのこと,クライエントの「負の時間」を共有したことが重要であったと考える.この見解は意思表出が困難なすべてのクライエントに対して有用であると考える.
情緒が著しく変動する認知機能障害を呈したパーキンソン病のクライエントを担当する機会を得た.クライエントとの関わり方を模索した2年間にわたる作業療法経過を記録し,考察したため報告する.なお,報告にあたり本人・御家族へ説明し同意を得ている.
【症例紹介】
T氏,70歳代後半の女性,認知症を合併するパーキンソン病,X-12年まで在宅で生活していたが,徐々に在宅生活困難となりX年に当院に療養目的にて入院となった.Hoehn&Yahr 重症度分類StageⅤであり,典型的なパーキンソン症状に加え,認知および情緒の著しい変動がみられた.状態の良い時は穏やかに過ごすが,妄想・抑うつ発言を発端にせん妄に近い状態へと移行する場面がみられた.本人の希望は聴取困難であり,家族の希望は「楽しみを持って入院してほしい」であった.
【作業療法経過】
1期:楽しみや充実感を感じられる作業を模索した時期(入院時~8カ月)
作業歴や興味関心チェックリストを活用し作業活動を提供するが「こんな体じゃ出来ません」等と抑うつ的な発言が聞かれた.時間をかけ訴えを傾聴しながら,病前からの好みの歌や花を中心に作業提供を行った.好みの歌を聴くと自然に口ずさみ,花に関連させた貼り絵はわずかな励ましで作業を始めた.活動を継続していく過程の中で,心気的な発言も聞かれたが「楽しいですね」と表情が綻ぶようになった.貼り絵は毎日行う中で「習慣・能動・没頭・要求・情緒的交流」できる活動となった.
2期:進行期における作業療法を模索した時期(8カ月~18カ月)
徐々にせん妄症状が連続して確認される時間が増え,日常的なケアに対する拒否が多くなった.作業活動では自発的に参加する一方,不快と捉え拒否する場面がみられ,症状が安定せず関わり方に頭を悩ませた.介入時間の変更や作業内容を簡素化したが,期待するような成果は得られなかった.筆者はこの状況に留まり,調子が悪い時は感覚レベルの関わり時間とした.ことばやからだの表情(山根2005)から意思を汲み取ることに重きを置き,無理に侵襲しない時間を設けたことで,症状が安定しない中でも微細な表出や意思の変化がすでに存在していたことを認識した.
3期:作業を介した関わりの中で小さな意思の変化を辿った時期(18カ月~現在に至る24カ月)
日常的なケアに一貫として拒否を示していた.整容動作全介助は侵襲性が高く拒否を示しやすいと推測し,実際に介入してみるが継続的に協力を得ることは難しかった.日内変動表を作成し介助に対する非言語的な要素を観察した.視線や表情,自発的な四肢の動きで意思表出を確認していくと,協力姿勢を示しやすい時間帯をみつけた.時間的な配慮を行うことで整容動作は継続的に協力姿勢が得られたことに加え,作業活動では自発的に取り組み笑顔や他者との交流を楽しむ様子が増えた.
【考察】
2年間の経過の中で作業は継続され,好意的に作業参加できる時間・できない時間が存在し,双方にはクライエントの意思が働いていることを筆者は認識した.不穏や拒否の表出から「今は関わるべきでない」「介入できない時間」と思い込み,頭を悩ませた期間はクライエントに対して意思の汲み取りが不十分であったと捉えることができる.拒否していたケアに協力的となった背景には,長期にわたって築いた関係性や関わり方はもちろんのこと,クライエントの「負の時間」を共有したことが重要であったと考える.この見解は意思表出が困難なすべてのクライエントに対して有用であると考える.