第56回日本作業療法学会

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ポスター

精神障害

[PH-9] ポスター:精神障害 9

Sat. Sep 17, 2022 3:30 PM - 4:30 PM ポスター会場 (イベントホール)

[PH-9-4] ポスター:精神障害 9精神科訪問看護において不安階層表を目標設定に活用した事例

勝嶋 雅之12 (1帝京平成大学健康医療スポーツ学部 リハビリテーション学科 作業療法コース,2株式会社円グループ 訪問看護ステーション卵)

【序論】精神科訪問看護では地域生活における活動・参加の促進が目標の一つになる.抑うつ状態が遷延していた事例は行動の変化に対して,漠然とした不安をたびたび感じ,結果として無為自閉的な生活を継続していた.軽度知的障害が併存していることもあり,目標設定においても具体性や一貫性を伴わないことが窺われた.今回,認知行動療法などで使用される不安階層表を活用して目標を段階付けした関わりを経験したので報告する.本報告にあたり施設長の承認と事例には書面にて説明と同意を得ている.開示すべきCOI関係はない.
【事例】A氏,40代前半の男性,双極性障害Ⅱ型.腰痛がある継父と軽度認知障害疑いのある母と3人で同居生活をしていた.2年前,デイケア参加中に抑うつが強まり通所中断.自ら希望して3カ月間入院したが治療効果を感じることができず自ら退院した.退院後は自宅で自閉的な生活が持続していた.本人の希望により精神科訪問看護を初めて利用することになった.
【OT評価と介入方針】薬物処方内容についての不安や,将来の経済的な不安,両親の死後の自身の生活,近所で昔の友人に会うかもしれない不安,など様々なことに不安を感じていて対処行動を検討する気持ちの余裕も持つことができない様子であった.不定愁訴が多く,抑うつ的で活動意欲も乏しく自宅外に出かけることもほとんど無い自閉的生活を続けていた.対人不安も強く,他者の評価を気にしていた.全般性IQは68で軽度知的障害の疑いがあった.K6 Screening Scale(以下,K6)21点,The Patient Health Questionnaire(以下,PHQ-9)17点,The Generalized Anxiety Disorder(以下,GAD-7)17点で抑うつ,不安とも著明であった.Global Assessment of Functioning(以下,GAF)42点であった.そこで,精神科訪問看護の機会を通して治療関係を構築していき,不安への対処行動の改善や外出支援などを図り,いずれは社会資源につなげていく地域生活支援を行うことを介入の基本方針とした.
【経過】主治医に処方変更の要望を伝えるために訪問時に練習をしてから外来受診に臨んだところ,無事に処方変更となって満足した様子であった.またラジオ体操を室内で行う,ファストフード店でコーヒーを飲む等の外出活動を行った.ところが不定愁訴は続き,本人のやってみたいこと(Hope)も一貫性を欠いて変動していあ.本人の不安感の少ない達成目標を段階付けして設定するため,不安階層表を使用して具体的な達成目標と現在感じている不安点数を記載し,目標達成のステップを一緒に作成した.A氏の相談窓口や社会参加の資源として徒歩圏内にある地域活動支援センター(以下,地活)の存在を伝えると徐々にではあったが興味を示され,最終的に施設の見学同行を行い,地活のスタッフとも緊張はしながらも雑談をするなどの場面がみられた.
【結果】地活への正式利用者登録をすることができた.プログラムはまだ不安があるため参加せずにいたが,スタッフと雑談をするために通所するなど生活活動範囲の拡大がみられた.K6は13点,PHQ-9は14点,GAD-7は8点となり,抑うつや不安に関する評価指標はいずれも改善がみられた.GAFも54点に改善した.
【考察】今回,不安階層表を使用して目標設定をA氏と協同して行い,段階付けして設定することができた.達成目標が明確になり,具体的な活動に取り組む意欲を引き出す動機付けのきっかけになったと考えられた.精神科訪問看護のような利用者宅での個別支援環境は,言語的な関わりの機会も多い.そのため,認知行動療法のような心理社会的加入支援で用いる技法や手法は有効であると思われた.