第56回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

精神障害

[PH-9] ポスター:精神障害 9

2022年9月17日(土) 15:30 〜 16:30 ポスター会場 (イベントホール)

[PH-9-5] ポスター:精神障害 9聴き手が話し手の言葉を繰り返すことによる話し手の心理的影響

田中 真1小山内 隆生1加藤 拓彦1和田 一丸1 (1弘前大学大学院保健学研究科)

【はじめに】
 我々作業療法士にとって面接は,患者自身の情報を得るためや二者関係の構築などを目的とし様々な場面で用いられており,作業療法を実施する上で重要な役割を果たしている.カウンセリングにおいて,聞き手が話し手の言葉の中で重要だと思った言葉をそのまま繰り返したりわずかな言い換えで表現したりする応答技法のことを反射という.反射のその中でも話し手の言葉をそのまま繰り返すことは,話し手の体験過程がずれないことがこれまでの研究で明らかになっている.そこで本研究では,反射技法の中でも話し手の言葉の繰り返しに焦点を当て,面接時における言葉の繰り返しの有無によって,話し手の不安感情や自己開示の程度にどのような影響を及ぼすのかを明らかにする事を目的とした.
【対象と方法】
 被験者は,本研究の趣旨に同意が得られた大学生計36名(男性14名,女性22名)である.まず始めに,被験者である話し手が実験を行う部屋に入室し,検査者である聴き手から200㎝の距離に対峙する椅子に着席した後,聴き手は「最近楽しかった出来事は何ですか」「今までで一番つらかった経験は何ですか」などこれまでの経験や人となりについての6つの質問を行った.聴き手はそれぞれの質問に話し手が最後まで応え終わるのを待って次の質問を行った.その際聴き手は,話し手の発言した内容に対して2つの異なる条件の応答を行った.ひとつは相槌に加えて話し手の発言内容をできるだけそのまま繰り返す条件(以下繰り返しあり条件)とし,二つ目は相槌のみで話し手の発言内容を繰り返さない条件(以下繰り返しなし条件)とした.面接前後の話し手の不安感情の変化の評価には「平静であるか」「不安であるか」などの20の質問項目からなるState-Trait-Anxiety Inventory日本語版(以下STAI)を用いた.面接後の自己開示の程度の評価には聴き手に対してどの程度自己開示できそうかについて,レベル1の浅い自己開示からレベル4の深い自己開示までの24の質問項目からなる自己開示尺度を用いた.各条件ごとのSTAIの面接前後の得点比較にはWilcoxonの符号順位検定を用い,条件間の面接後の自己開示尺度の得点比較にはMann-Whitney U testを用い,危険率5%未満を有意差ありとした.本研究は,弘前大学大学院保健学研究科倫理委員会の承認のもと行った(整理番号:HS2021-046).
【結果および考察】
 条件ごとにSTAIの面接前後の合計得点を比較したところ,繰り返しあり条件において面接後のSTAI合計得点が有意に低く不安が軽減していた(p<0.05).下位項目得点を比較したところ,繰り返しあり条件で有意に改善した項目は「高くなっている」「ほっとしている」「不安である」「緊張している」の4項目であり,悪化した項目は「イライラしている」「ウキウキしている」の2項目であったのに対し,繰り返しなし条件で有意に改善した項目は無く,有意に悪化した項目は「後悔している」「ピリピリしている」の2項目だった(p<0.05).面接後の両条件間の自己開示尺度の合計得点および下位項目得点を比較したところ,合計得点に有意差は認めれなかったものの,下位項目の深い自己開示であるレベルⅢの「ある経験を通して「自分は少しダメだな」と思ったこと」と,レベルⅣの「自分のせいで人をひどく傷つけてしまった経験」の2項目において繰り返しあり条件の得点が有意に高かった(p<0.05).以上のことから,聴き手が話し手の言葉を繰り返すことは,より深いレベルの自己開示を促し,話し手の不安感情を軽減させるのに有用であると考えられた.