第56回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

発達障害

[PI-2] ポスター:発達障害 2

2022年9月16日(金) 13:00 〜 16:00 ポスター会場 (イベントホール)

[PI-2-1] ポスター:発達障害 2問題行動の軽減につながった強度行動障害病棟の日中活動について

作業療法士の視点から

小林 健哉1宮崎 萌1竹中 睦1宮岡 一貴1鈴木 郁子1 (1社会福祉法人 埼玉医療福祉会 光の家療育センターリハビリテーション部)

【はじめに】光の家療育センターは重症心身障害児者の医療型障害児入院施設,療養介護施設である.332床のうち124床は強度行動障害を抱えた利用者様が入所しており,自傷,他害,不潔行為など病棟職員が対応に苦慮する事も多い.そのような行動を軽減するために,日中に散歩やパズル等の活動を提供していたが,長年同じ事の繰り返しで対象者,職員共に恒常化し問題行動の軽減には至らなかった.今回作業療法士(以下,OT)が小集団の「和紙製作」を病棟に導入した事で参加利用者(以下,対象者)の問題行動の軽減が見られた.施設に入所する強度行動障害を抱えた方々に対する作業療法では個別の関わりでの事例報告はあるが,病棟で作業活動を導入,実施し問題行動の軽減に繋がった報告は本邦では数が少ない.その為本実践では,強度行動障害を抱えた対象者に作業を導入する際のポイントや,作業が対象者に与えた影響についてOTの視点からまとめた為ここに報告する. 本実践は当施設の倫理綱領に基づき計画され,承認を得ている.活動内容の実施及び報告については保護者に書面にて同意を得ている.
【対象】施設に入所している20歳以上の知的障害,自閉スペクトラム症を抱えた男性3名(A,B,C様)女性2名(D,E様)計5名を対象とした.平均年齢は43±14歳.大島の分類では分類6が1名,分類10が2名,分類11が2名であった.尚,全員強度行動障害判定基準の10点を超えている.
【方法】和紙製作の方法として,X年Y月より毎週月〜土曜の午前中に1時間実施した.材料の準備工程,紙すきの工程を細分化し,各対象者の能力に適した作業を提供した.不器用な方でもご自身の力で行える使いやすい道具の工夫や,視覚的な支援,環境の構造化等の工夫をした.加えて,始まりの会,準備,作業,片付けなど,集団での流れやルールを設定し,社会性を養う要素も取り入れた.今回の実践による対象者の変化に対する分析方法として,日中の生活記録,ヒヤリハットから昨年の同時期との問題行動の減少数を集計した.また病棟職員から対象者の変化についてアンケート調査を行い,対象者の変化に対する記載を抜粋し集計・分析をした.
【結果】和紙製作導入後,対象者の問題行動が軽減した.導入後の対象者の変化を昨年同時期の3ヶ月間と比較した.A様の失禁回数が120回→70回に減少.B様の自傷回数は5回→2回に減少.C・D様の異食・汚水飲み行動の減少.E様の他害行為15回→6回に減少した.病棟職員へのアンケート調査では71%が「和紙製作を始めてから落ち着き関わりやすくなった」等,良い変化を実感していた.実際に日常生活の中での変化として「自傷行為ではなく,声かけやベルを使って職員を呼べた」「集団の中で順番を待てた」等,いずれも和紙製作の場面での取り組みが日常に汎化されていた.
【考察】今回,小集団での和紙製作を導入し,能力に適した作業から適応的な行動を学習する機会を提供した.作品の完成や役割の完遂など,自己肯定感を得られる時間が保証された事が問題行動の減少に繋がったと考える.また,知的障害・自閉スペクトラム症の認知特性に焦点を当てた機能評価から課題設定,道具の工夫,構造化等の環境調整を行った事で和紙製作が毎回成功で終われる活動となり,対象者の精神の安定に繋がったと考える.加えて「和紙を作って家族に送る」「アート展に出品する」等,対象者,職員が共に作業の目的,意味が明確な事も作業に従事しやすい一要因であった.今回の実践から強度行動障害を抱えていてもOTの視点から機能評価・作業分析に基づいた対応を続ける事で,変化し得る可能性が大いにある事が示唆された.