第56回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

発達障害

[PI-3] ポスター:発達障害 3

2022年9月16日(金) 15:00 〜 16:00 ポスター会場 (イベントホール)

[PI-3-5] ポスター:発達障害 3他機関連携により当センターへの通園に至った一例

鳥越 夕妃12大坪 光保12 (1社会福祉法人麦の子会 札幌市みかほ整肢園,2社会福祉法人麦の子会 むぎのこ発達クリニック)

<はじめに>
 当法人では,1983年より発達障害を有する子どもに対し,必要な発達支援・家族支援・地域支援を行い,学齢期・成人期に合わせて支援に必要な事業所を展開し,2020年度からは市の指定管理を受け,医療型児童発達支援センターの運営を開始した.
 近年,虐待報告件数は増加傾向にあり,米山は,心身の発達の障害や遅れや偏り及び慢性的疾病は虐待の子ども側へのハイリスク要因としている(2019).
 今回,養育者のネグレクトにより低酸素脳症を呈し,祖母宅に退院することを条件に退院を許可され,児の生存確認や発達支援を目的に関係機関との要保護児童対策地域協議会(以下,要対協)へ参加し,居宅型児童発達支援から当園への通園に至ったケースを担当した経過を報告する.今回の報告に関して保護者より書面にて同意を得ている.
<症例紹介と受傷歴>
 脊髄性筋萎縮症の診断を受けた3歳男児.家族構成は両親と本児.横地分類B1.医療的ケアは適宜必要な喀痰吸引や経管栄養による栄養・飲水の注入であった.受傷前のサービスは,当園への母子通園が2週に1回,訪問診療や訪問看護・訪問リハビリテーションを受けていたが,訪問頻度は保護者不対応のため不定期となっていた.祖母が近所に居住しており,体調を確認した際に,衰弱状態となっていたため,A病院へ救急搬送され,母子入院となった.入院中の吐物誤嚥により心肺停止状態となり,祖母の希望により延命治療を実施し,気管切開・24時間人工呼吸器管理となった.祖母宅への退院を条件に退院が許可され,主治医の要請により要対協を行い,居宅型児童発達支援を開始している当園への協議会参加の要請があり,作業療法士に加え,相談員,看護師,理学療法士が参加にすることに至った.
 当園では作業療法士や理学療法士と保育士や看護師が訪問し,身体機能の維持・改善,知的発達などの発達支援,本児の生命維持の確認や生活状況の確認を目的に介入を開始した.
<経過>
 訪問開始当初は,本児の生活に関する情報を祖母と共有し,必要に応じて訪問診療担当医師や訪問リハビリテーションの担当理学療法士,看護師と連携を図った.
 本児との作業療法では,関節可動域訓練や排痰,寝返り練習,抱っこでの座位練習などを行いながら,感覚入力を目的として保育士と共に遊びを取り入れて場や遊びの共有を図った.介入当初は表情の変化は乏しく,アイコンタクトなども少ない状況であったが,経時的にアイコンタクトが見られるようになり,笑顔が増え,表情変化が豊かになった.この様子から祖母より,「お友達との関わりも増やしたい」との希望が聞かれ,通園への移行を検討し始めた.
 主治医の許可もおり,退院後9ヶ月程度経過したのちに通園開始となった.通園開始後は,クラス活動に作業療法士が同席し,活動時の姿勢や作業活動の提供方法などを保育士へ指導し,行事への参加も積極的に行った.
<考察>
 医療的ケア児はケアの必要性や頻度が個人によって異なり,本児は自力での排痰が困難なことや栄養管理などの生命維持に関するケアを養育者が担う部分が大変大きかった.しかしながら,両親の養育能力が不足していたことから,本児が必要とした際にケアを行うことが難しく,結果的にネグレクト状態に至った.祖母宅への退院により在宅サービスを安定して受けることができたことや居宅型児童発達支援による作業療法の提供や保育士との連携を含めた発達支援を受けることは,本児がこれまで見せることのなかった表情の変化が出始め,通園への意欲が高まったことは本児の社会生活の幅が広がることへの一助になったのではないかと考える.