第56回日本作業療法学会

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ポスター

発達障害

[PI-5] ポスター:発達障害 5

Sat. Sep 17, 2022 10:30 AM - 11:30 AM ポスター会場 (イベントホール)

[PI-5-4] ポスター:発達障害 5片麻痺の女児に対する両手機能に着目した目標指向的な介入実践の効果

菊池 彩未1三浦 正樹1吉田 律子1木瀬 憲司1荒井 洋2 (1社会医療法人 大道会 ボバース記念病院リハビリテーション部作業療法科,2社会医療法人 大道会 ボバース記念病院診療部)

【はじめに】
片麻痺に対する目標指向的集中リハビリテーションの有効性が報告されているが,年少児や知的障害が強い症例では機能優位側の抑制や自主練習の定着が難しく,本邦でも小児に対する普及は不十分である.今回,中等度知的障害を伴う女児に対し,入院にて多職種による目標指向的介入を行い,両上肢機能および日常生活スキルの向上を認めたので報告する.本報告は当法人の倫理審査委員会の許可を得ており,演題発表に関連して開示すべきCOIはない.
【事例紹介】
脳性麻痺(左片麻痺)を有する10歳女児.普通小学校支援学級に通学.GMFCSレベルⅠ,MACSレベルⅡ.日常生活活動は修正自立(PEDI尺度化スコア:セルフケア56.8点,移動82.5点,社会的機能57.2点).麻痺優位側(左手)は,ペットボトルを開ける際に持っておく程度の把持は可能であった.両手の協調動作は拙劣であり,手洗いでは手背や手指間に洗い残しがあった.機能優位側(右手)に明らかな麻痺は認めないが,指尖つまみにてヘアピンや細いゴムをつまむなどの巧緻動作は難しかった.
【作業療法(OT)評価】
カナダ作業遂行測定(COPM) ,上肢機能の質的評価法 (QUEST),簡易上肢機能検査 (STEF),および遂行の質評価スケール(PQRS)を介入前後で評価した.COPMは入院時に本児,母親,医師,看護師,作業療法士で目標設定を行い,「髪を結ぶ」を目標の1つに挙げた.「髪を結ぶ」課題を①左手首にゴムをかける,②両手を使い後方で全ての髪を束ねる,③左手で後方の束ねた髪を把持,④右手で髪をゴムに通し束ねる,の4つの工程に分けて分析した.工程②では両手で髪を持ち替えながら束ねていく両手の協調動作,工程④では視野外での右手の操作が拙劣であり,OT介入の焦点になると分析した.
【介入方法】
「髪を結ぶ」課題に対し,工程分析で焦点化した内容について,難易度を調整しながら練習した.例えば視野内で人形の髪を結ぶ,ゴムであらかじめ髪を束ねた上から結ぶ,直接自身の髪を結ぶ,と段階付けた.また,視野外での操作を補助するため,アクセサリー付きゴムを導入した.本人用の自主練習メニューを作成して病棟看護師と共有し,OT(1日60分)と病棟場面で10日間練習した.定期的に髪を結ぶ場面の動画を撮影し,本人と変化点や課題を確認し,プログラムの再設定を行った.
【結果】
目標であった「髪を結ぶ」が自身で行えるようになり,動画を見返して喜ぶ姿が見られた.介入前後でCOPMは遂行度4→8,満足度4→10と臨床的に意義ある最小変化量を超えた.QUESTは83.62点で不変,STEFは右65→89点,左17→45点,PQRSは3→8点と向上した.母親からは,「髪を結ぶ」の向上だけでなく,右手で小銭を自動販売機に入れるなど日常場面での右手機能の向上が報告された.
【考察】
片麻痺の子どものスキル向上に対しては麻痺優位側への介入に加え,両手動作や機能優位側への介入も重要であることが示唆された.本人・家族のニードに基づく個別的な目標設定,課題の焦点化と段階付け,自主練習のサポート,道具や環境の工夫,分かりやすいフィードバックなど,OT主導にて多職種が包括的に介入することで,モチベーションを維持した集中的な練習が可能となり,上肢機能や日常生活のスキル向上につながったと考えられる.