第56回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

発達障害

[PI-8] ポスター:発達障害 8

2022年9月17日(土) 15:30 〜 16:30 ポスター会場 (イベントホール)

[PI-8-1] ポスター:発達障害 8描画を活用した幼児に対する作業療法

言語と非言語のインタフェースとしての活動

塩津 裕康1 (1中部大学)

【序 論】Vygotskyに代表されるように「子どもと描画」の関係について着目されてきた.幼児が描画のような非言語的媒介を好むのは,言語発達が未熟であるからだと言われている.今回幼児2名に対して異なる目的で描画を活用した作業療法を実施した.その目的は言語を用いて作業遂行を改善することと,減らしたい行動の背景(非言語領域)を探索することである.
【目 的】幼児2名に対する描画を用いた実践から,言語と非言語のインターフェースとしての描画の活用方法や意義について検討することを目的とする.
【方 法】
1.対象
 対象は,5歳8ヶ月で幼稚園年長の男児(Aくん)と4歳5ヶ月で幼稚園年中の女児(Bちゃん)である.Aくんは描画や書字に苦手意識があり特に「三角形」が描けずに悩んでいた.幼稚園や自宅で練習機会があるもののそれを回避するようになり,母親と幼稚園教諭の悩みでもあった.Bちゃんの場合は,母親が「吸指癖」が辞められないことについて悩んでいた.母親の懸念は歯科的な影響であった.なお,倫理的事項として,保護者に対して書面を用いてインフォームドコンセントを得た.
2.実践の概要
 AくんにはCognitive Orientation to daily Occupational Performance(CO-OP)にSquiggle(Winnicott, 1971)を組み合わせた応用実践を実施した.Squiggleは「発見の遊び」であり,一方が描画したランダムな線に対して,もう一方が何かを見出す描画遊びである.加えて,本実践では回答者が絵に線を付け足し自身が見えた絵を完成させることとした.なお評価はCOPM,Performance Quality Rating Scale(PQRS),フロスティッグ視知覚発達検査を用いた.
 Bちゃんには吸指癖の背景を探索するために描画を用いた面接を実施した.Squiggleから開始し,描画から自由連想法に展開させるDrawing Association Method(Makise, 2013)へと展開した.さらにやり取りの中で吸指癖の背景を探索した.なお評価は母親に対してCOPM,Goal Attainment Scale(GAS)を実施した.
【結 果】AくんとSquiggleを進める中で,意図的にOTRが「三角形」を描いて出題した.その結果,Aくんは「ポリンキーや!」と回答した.Aくんが目や口などを付け足した後,ポリンキーの仲間を描いてみるように依頼した.Aくんはポリンキー作戦で自宅や園でも三角形が描けるようになり,ひらがなの習得に繋がった.
 Bちゃんは,Drawing Association Methodにおいて「山→パンダ→ママ」と連想しながら描画を進めた.描画の特徴として,パンダの手は丸みがあるのに対し,ママの手はトゲトゲしい形をしていた.それについてOTRがきいていくと「ママは怒ると怖いの...」と語り始めた.OTRはBちゃんの描画や語りを踏まえ,母親と面接を実施した.母親は吸指癖を治めるために強く注意をしてしまうことや鍼治療に通わせていることなどの状況が分かった.母親には吸指癖の捉え方をリフレーミングすることを促し,Child Adult Relationship Enhancement(CARE)を軸に親子関係の構築に対して助言した.その結果,約2ヶ月後には吸指癖は消失した.なお,評価結果の詳細を含めて発表を行う.
【考 察】描画の活用方法を「言語と作業」で考える.Aくんは言語領域,Bちゃんは非言語領域への接続として描画を活用した.CO-OPのように言語的ガイドが作業遂行の改善に繋がることは実証されている.一方非言語領域は,成人であれば面接によって作業の意味や目的が理解できるのかもしれないが言語発達が未熟な時期はそれが難しい.そこで,描画という非言語的媒介を活用した面接が一つの手段となり得ると考える.