第56回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

高齢期

[PJ-1] ポスター:高齢期 1

2022年9月16日(金) 13:00 〜 14:00 ポスター会場 (イベントホール)

[PJ-1-4] ポスター:高齢期 1認知症高齢者のストレスおよび行動・心理症状に対するバーチャルリアリティの効果検討

急性期病院での介入効果

中島 龍彦1松尾 圭介1兼田 絵美1城戸 正臣2沖 雄二3 (1公立八女総合病院,2サン情報サービス株式会社,3帝京大学福岡医療技術学部)

【序論】認知症高齢者にとって,入院はストレスが増大し,認知症の行動・心理症状(以下,BPSD)が誘発される懸念がある.先行研究(長谷川2006)では,BPSDの増悪をきたしやすい急性期病院の「医学モデル」主義の環境が問題であると指摘し,ストレスフルになった認知症高齢者への取り組みとBPSDの改善が急務である.ストレス緩和での作業療法実践において昨今,バーチャルリアリティ(以下,VR)が注目されている.
【目的】本研究はVRを用いて,認知症高齢者のストレスとBPSDへの影響を検討するものである.
【対象】対象は,入院患者の中で,①確定診断が認知症である,②認知症高齢者の生活自立度がⅡ以上である,③アセチルコリンエステラーゼ阻害剤,またはNMDA受容体拮抗薬が投与されている,④DBD-13で3点以上かつMMSE-Jが23点以下である,の基準を満たした18名(平均年齢85.1±5.0歳)とした.
【方法】方法は,対象者に5つのVR映像(①森林,②赤ちゃん,③川下り,④水辺,⑤戦闘機)の中から2映像を任意選択してもらいヘッドマウントディスプレイOculus Quest2を用いて,2分間視聴を5日間連続で実施した.評価は,VR映像の視聴前後のバイタル測定および唾液アミラーゼ活性を測定した.またVR視聴中の反応は,集団個別評価表(長倉1994)を用い,評価の信憑性担保のため,著者を含めた3名で集計した.分析方法は,5回測定するバイタル測定値,アミラーゼ活性数値,集団個別評価表に関して,Friedman検定,多重比較にBonferroni法を用い分析した.またMMSE―JおよびDBD-13については,Wilcoxon 検定を用いた(有意水準は5%未満).
【倫理的配慮】本研究は,当院倫理委員会の承認を得て実施した(承認番号21-001).
【結果】VR視聴前後の唾液アミラーゼ活性は,視聴後に2回目,4回目において有意なストレス緩和を示す数値を認めた(P<0.05).5回目に関しても,VR視聴後に活性数値の低下の傾向を得た.バイタルの数値については有意差が認められなかった.一方視聴中の反応では, 1回目と4,5回目,2回目と3,4,5回目,3回目と5回目に有意な点数の向上を認めた(P<0.05,P<0.001).さらにDBD-13において,介入後に有意な点数の低下を認めた(P<0.01).
【考察】VR映像視聴によるストレス緩和は先行研究(松本2019)で述べられているが,急性期病院の認知症高齢者での介入報告は散見されない.今回の結果から認知症高齢者のVR視聴は,複数回実施するとストレスが緩和され,反応が良くなることが明らかになった.つまり,VR視聴は認知症高齢者にとってもストレス緩和を導きだす手段として有効であることが示唆された.BPSDとの因果関係においてはDBD-13で有意な低下は認めたが,病院の生活に慣れた可能性も否定できない.しかし精神的ストレスの増大がBPSDの出現要因の1つとして明らかになっていることから,VRの視聴はBPSD改善の間接的効果を導きだす上での有用性は高い.また病態不安定な急性期でも使用できる可能性が高いと考える.
【本研究の限界】本研究の限界は,①1施設だけでの介入研究であること,②VR視聴よるBPSD改善の直接的効果の証明ができなかったこと,が挙げられる.
【COI】本研究は福岡県作業療法協会の研究助成金,帝京大学福岡医療技術学部およびサン情報サービス株式会社より備品を借用して実施している.