[PJ-2-1] ポスター:高齢期 2意思決定に寄り添う作業療法
発声と書字が困難な高齢入院患者のアドバンス・ケア・プランニング
【はじめに】近年アドバンス・ケア・プランニング(以下ACP)への注目が高まっている.ACPとは「成人患者の価値観,生活の目標,今後の治療に対する意向を理解・共有することを支援するプロセス」(Sudoreら,2017)であり,臨床的には作業療法(以下OT)に馴染み深い概念といえる.今回,治療中止をジェスチャーで訴えた高齢患者のOTを経験し,ACPにおけるOTの果たす役割について示唆を得たので報告する.発表にあたり本人へ口頭で説明し同意を得た.
【症例紹介】Aさん,70歳代男性,日常生活活動(以下ADL)自立.妹と二人暮らし.既往歴は肺気腫,肺癌などあり.心臓手術目的に入院したが,術後ADLが著明に低下し,せん妄も発症し医療拒否となった.認知機能とADLの改善を目的にOTが処方された.
【初期評価】Japan comma scale(以下JCS)Ⅱ-10,Barthel Index(以下BI)0点.気管切開後,意思表出はジェスチャーと簡単な口話となっており,筆談は困難でコミュニケーション意欲は乏しかった.四肢随意性は保たれていたが呼吸機能低下により終日臥床していた.OTは意思表出機会の促進と離床時間延長を目標に介入した.
【経過】呼吸機能改善に伴い車椅子乗車や介助歩行が可能となっていった.せん妄が改善し作業療法士(以下OTR)との交流を楽しむことが出来,冗談を言うなど表情やジェスチャー表現も豊かになった.ある日病室から車椅子に乗り訓練室まで散歩したところ,他患が囲碁を行っており,その様子をじっと見つめていた.OTRが伺うと,将棋なら興味があると語り,以後OTでは離床して将棋を行うことが習慣となった.また,不慣れなOTRに戦法を指南するようになった.Aさんの将棋の指し方はバラエティに富みかつ何手も先を読んでいた.幼少期に父から教わったことなど,将棋をきっかけに生活歴について語りを引き出していくことが出来た.一方で経鼻管や点滴の入れ替え時は度々拒否がみられ,妹の説得が必要なこともあった.ある日偶発的に経鼻管が抜けたことを契機にAさんは経鼻管挿入を拒否し「天国へ行く」とジェスチャーで示すようになった.医療者が妹と共に何度も意向を確認するもAさんの治療中止の意思は変わらなかった.OTはAさんの病状理解の程度と死生観の理解に努めることとした.OTRが医療処置やその目的をAさんの理解度に合わせて説明したところ,経鼻管はなんのために入れているのか分からなかったと語った.将棋の合間に治療の意向や死生観を伺うと,父が永眠した今の年齢が自分の寿命だと思っていたと語り,治療を中止する意思は一貫していた.
【最終評価】JCSⅠ-1,BI35点.栄養不足により徐々に衰弱していた.不眠はあったがせん妄はなく日中は情緒穏やかに過ごした.臥床時間が増えたが,将棋の時間に合わせて起き上がり身支度を整えて待つ様子がみられた.自宅生活は困難であり入院4ヶ月目に療養型病院へ転院した.
【考察】将棋という作業は,当初Aさんに離床機会や余暇活動として作用した.OTRとの関係性が築かれると,幼少期を振り返ったり父を想起したりするという意味を持ち始めたと考えられる.寿命を意識しながら,父から教わった将棋をOTRに伝え続けた過程は,Aさんが自身の価値観を体現し,それを伝える時間だったと思われる.OTは直接的に治療方針を決定する立場にはないが,作業を通して対象者の価値観や生活の目標,治療に対する意向に迫ることが出来る.過去や日常に埋もれている作業を見つけ,その意味を理解し対象者の意思決定に寄り添っていくことがOTのACPに果たす役割になると感じた.
【症例紹介】Aさん,70歳代男性,日常生活活動(以下ADL)自立.妹と二人暮らし.既往歴は肺気腫,肺癌などあり.心臓手術目的に入院したが,術後ADLが著明に低下し,せん妄も発症し医療拒否となった.認知機能とADLの改善を目的にOTが処方された.
【初期評価】Japan comma scale(以下JCS)Ⅱ-10,Barthel Index(以下BI)0点.気管切開後,意思表出はジェスチャーと簡単な口話となっており,筆談は困難でコミュニケーション意欲は乏しかった.四肢随意性は保たれていたが呼吸機能低下により終日臥床していた.OTは意思表出機会の促進と離床時間延長を目標に介入した.
【経過】呼吸機能改善に伴い車椅子乗車や介助歩行が可能となっていった.せん妄が改善し作業療法士(以下OTR)との交流を楽しむことが出来,冗談を言うなど表情やジェスチャー表現も豊かになった.ある日病室から車椅子に乗り訓練室まで散歩したところ,他患が囲碁を行っており,その様子をじっと見つめていた.OTRが伺うと,将棋なら興味があると語り,以後OTでは離床して将棋を行うことが習慣となった.また,不慣れなOTRに戦法を指南するようになった.Aさんの将棋の指し方はバラエティに富みかつ何手も先を読んでいた.幼少期に父から教わったことなど,将棋をきっかけに生活歴について語りを引き出していくことが出来た.一方で経鼻管や点滴の入れ替え時は度々拒否がみられ,妹の説得が必要なこともあった.ある日偶発的に経鼻管が抜けたことを契機にAさんは経鼻管挿入を拒否し「天国へ行く」とジェスチャーで示すようになった.医療者が妹と共に何度も意向を確認するもAさんの治療中止の意思は変わらなかった.OTはAさんの病状理解の程度と死生観の理解に努めることとした.OTRが医療処置やその目的をAさんの理解度に合わせて説明したところ,経鼻管はなんのために入れているのか分からなかったと語った.将棋の合間に治療の意向や死生観を伺うと,父が永眠した今の年齢が自分の寿命だと思っていたと語り,治療を中止する意思は一貫していた.
【最終評価】JCSⅠ-1,BI35点.栄養不足により徐々に衰弱していた.不眠はあったがせん妄はなく日中は情緒穏やかに過ごした.臥床時間が増えたが,将棋の時間に合わせて起き上がり身支度を整えて待つ様子がみられた.自宅生活は困難であり入院4ヶ月目に療養型病院へ転院した.
【考察】将棋という作業は,当初Aさんに離床機会や余暇活動として作用した.OTRとの関係性が築かれると,幼少期を振り返ったり父を想起したりするという意味を持ち始めたと考えられる.寿命を意識しながら,父から教わった将棋をOTRに伝え続けた過程は,Aさんが自身の価値観を体現し,それを伝える時間だったと思われる.OTは直接的に治療方針を決定する立場にはないが,作業を通して対象者の価値観や生活の目標,治療に対する意向に迫ることが出来る.過去や日常に埋もれている作業を見つけ,その意味を理解し対象者の意思決定に寄り添っていくことがOTのACPに果たす役割になると感じた.