[PJ-2-5] ポスター:高齢期 2特別養護老人ホームの現状から見えてきた介護業界の課題
〝畑仕事をしたい〟想いに応える生活支援の事例から
【はじめ】
今回,特別養護老人ホームに入所したA氏の生活支援に関わった.介入の中で見えてきた介護業界の課題について,以下報告する.※報告に際し,ヘルシンキ宣言に基づき本人,家族へ同意を得た.
【事例紹介】
100歳代,女性,要介護4,入所時は意欲低下.X+1月「退屈だから,家でしていた畑仕事をしたい」と語る.家族からも,日課を見つけてほしいとの要望があり,施設屋上菜園の手伝いを提案すると興味を示す.
【作業療法評価】
既往歴:両膝変形性膝関節症 心身機能:両下肢筋力低下(MMT3),易疲労性,手指巧緻性良好,MMSE:18点(対人交流良好) 活動/参加:Barthel Index 40/100 FIM 56/126 (口頭指示:衣服選定,車いす操作の右左折/後方移動)(一部介助:移乗を伴うADL,EV操作,菜園の水やり) カナダ作業遂行測定(COPM):菜園への自己評価(重要度8/10,実行度・満足度共に2/10) 環境:余暇活動に関わる時間がない(介護職)
【介入方法】
目標を「週3回,屋上菜園の水やりや草取りをする」と立案し,①水やりや草取り動作獲得 ②EVへの乗降り動作獲得 ③支援体制調整,この3つへと介入する.
【経過・結果】
1期:菜園活動に向けて ①訓練室では,上肢操作や園芸本を用いた野菜作りの遂行機能練習を実施.またユニット内では,立位保持や移乗動作に取り組み,菜園に関する会話も増えた.②車いす操作では,EV扉にハンドリムが当たるが口頭指示にて修正可能だった. X+2月より菜園活動を開始.いざ土に触れると高い意欲を示すが,如雨露での水やりは工夫が必要だった.③介護職の業務改善には,会議のファシリテートやICT導入にて,週3日(1日30分)の時間を確保し,家族面会では,生き生きと近況報告された.
2期:自立度の限界と支援体制の課題 X+3月,EVへの乗降りや衣服選定の自立度の停滞が課題となった.また介護職から「時間は出来たが,職員次第では現場を離れる事が不安」と相談を受ける.本人・家族・多職種と協議し,ユニット内ベランダでの活動が適切と判断した.
3期:活動場所変更から日課定着へ 活動場所変更に伴い,移動が容易になり,またベランダはホースが使用できるため,水やりの自立度が高まり,A氏も満足した.衣服選定は,活動を重ねる度に,自己決定への自信が増した.結果,水やりや草取りが介護職付き添いの元,日課として定着した.ADL評価はBI:45,FIM:60と変動はなかったが,COPMの自己評価はX+4月で,実行度・満足度共に8/10となった.
【考察】
多職種との目標共有,役割の明確化により,円滑な経過に繋がった.家族との関わりも精神的支柱となり,活動を加速させた.介護職の支援体制やEVの乗降りに課題もあったが,活動場所変更にて,菜園活動が日課として定着した.Kielhofnerは1)「習慣と役割とは,日常生活の中に織り込まれ,相互的に毎日の行動を組み立てる」と示す.A氏が出来る事,支援される事に折り合いをつけた結果,最小限の支援で最大限の自律へと繋がった.今後,介護職の継続的な時間確保のためには,ICTや介護ロボットとの共存が求められる.経済産業省は2)「介護記録の電子化やICTの導入にて,作業時間が40%削減された場合,1事業所の労働時間の短縮効果は,特別養護老人ホームで8.94時間に及ぶ」と述べる.間接介護の効率化や職員の労働環境調整は,介護業界の課題であり,OTのマネジメント力が発揮できる領域だと考える.
【引用・参考文献】
1) 一般社団法人 日本作業療法士協会:第5巻 作業治療学2 精神障害 改訂第3版 2010
2) 介護専門職の総合情報誌 おはよう21中央法規 2018.10
今回,特別養護老人ホームに入所したA氏の生活支援に関わった.介入の中で見えてきた介護業界の課題について,以下報告する.※報告に際し,ヘルシンキ宣言に基づき本人,家族へ同意を得た.
【事例紹介】
100歳代,女性,要介護4,入所時は意欲低下.X+1月「退屈だから,家でしていた畑仕事をしたい」と語る.家族からも,日課を見つけてほしいとの要望があり,施設屋上菜園の手伝いを提案すると興味を示す.
【作業療法評価】
既往歴:両膝変形性膝関節症 心身機能:両下肢筋力低下(MMT3),易疲労性,手指巧緻性良好,MMSE:18点(対人交流良好) 活動/参加:Barthel Index 40/100 FIM 56/126 (口頭指示:衣服選定,車いす操作の右左折/後方移動)(一部介助:移乗を伴うADL,EV操作,菜園の水やり) カナダ作業遂行測定(COPM):菜園への自己評価(重要度8/10,実行度・満足度共に2/10) 環境:余暇活動に関わる時間がない(介護職)
【介入方法】
目標を「週3回,屋上菜園の水やりや草取りをする」と立案し,①水やりや草取り動作獲得 ②EVへの乗降り動作獲得 ③支援体制調整,この3つへと介入する.
【経過・結果】
1期:菜園活動に向けて ①訓練室では,上肢操作や園芸本を用いた野菜作りの遂行機能練習を実施.またユニット内では,立位保持や移乗動作に取り組み,菜園に関する会話も増えた.②車いす操作では,EV扉にハンドリムが当たるが口頭指示にて修正可能だった. X+2月より菜園活動を開始.いざ土に触れると高い意欲を示すが,如雨露での水やりは工夫が必要だった.③介護職の業務改善には,会議のファシリテートやICT導入にて,週3日(1日30分)の時間を確保し,家族面会では,生き生きと近況報告された.
2期:自立度の限界と支援体制の課題 X+3月,EVへの乗降りや衣服選定の自立度の停滞が課題となった.また介護職から「時間は出来たが,職員次第では現場を離れる事が不安」と相談を受ける.本人・家族・多職種と協議し,ユニット内ベランダでの活動が適切と判断した.
3期:活動場所変更から日課定着へ 活動場所変更に伴い,移動が容易になり,またベランダはホースが使用できるため,水やりの自立度が高まり,A氏も満足した.衣服選定は,活動を重ねる度に,自己決定への自信が増した.結果,水やりや草取りが介護職付き添いの元,日課として定着した.ADL評価はBI:45,FIM:60と変動はなかったが,COPMの自己評価はX+4月で,実行度・満足度共に8/10となった.
【考察】
多職種との目標共有,役割の明確化により,円滑な経過に繋がった.家族との関わりも精神的支柱となり,活動を加速させた.介護職の支援体制やEVの乗降りに課題もあったが,活動場所変更にて,菜園活動が日課として定着した.Kielhofnerは1)「習慣と役割とは,日常生活の中に織り込まれ,相互的に毎日の行動を組み立てる」と示す.A氏が出来る事,支援される事に折り合いをつけた結果,最小限の支援で最大限の自律へと繋がった.今後,介護職の継続的な時間確保のためには,ICTや介護ロボットとの共存が求められる.経済産業省は2)「介護記録の電子化やICTの導入にて,作業時間が40%削減された場合,1事業所の労働時間の短縮効果は,特別養護老人ホームで8.94時間に及ぶ」と述べる.間接介護の効率化や職員の労働環境調整は,介護業界の課題であり,OTのマネジメント力が発揮できる領域だと考える.
【引用・参考文献】
1) 一般社団法人 日本作業療法士協会:第5巻 作業治療学2 精神障害 改訂第3版 2010
2) 介護専門職の総合情報誌 おはよう21中央法規 2018.10