[PK-3-4] ポスター:認知障害(高次脳機能障害を含む) 3トラック運転手の自動車運転再開に向けた支援と課題
【はじめに】普通自動車や職業ドライバーの運転再開に向けた支援の文献は多々あるが,大型トラックの運転再開に向けた支援や課題についてまとめた報告は少ない.今回,発症から6カ月で大型トラックの運転再開に至った症例の退院後の状況を聴取し,今後の運転支援の課題をまとめたので報告をする.なお,発表にあたっては症例に書面と口頭で説明し,署名による同意を得た.また,所属長の承認を得ている.
【目的】大型トラックの運転再開に向けた支援体制を構築していくきっかけにすること.
【対象】当院回復期病棟に入院した視床出血の50代男性.
【方法】発症から6カ月後に電話にて,現在の運転状況と必要と感じた支援を本人から聴取.
【症例紹介】現在勤めている職場に20年勤務.運転歴25年.12tのトラックを運転しており事故歴はない.
【経過】入院時:Brs上肢Ⅵ,手指Ⅵ,下肢Ⅵであったが,覚醒状態が低下していたため,ADL全般に見守りが必要であった.退院時のFIMは121点でほぼ自立し,MMSE27点,TMT-JのAは正常,Bは境界,BADSは17点,コース立方体テストはIQ約85,SDSAは合格であった.ホンダ技研のドライビングシュミレーターによる評価では同年代と比較して反応速度が遅く,危険予測体験中級では事故は0だが,上級や総合学習体験で複数回事故を起こしていた.原因は危険予測の不十分さと,ブレーキ操作が遅いことであった.本人が急ブレーキをしたくないと考えており,心理面とこれまでの運転方法からブレーキの遅さに繋がっていた.しかし,JAFの危険予知・事故回避トレーニングを用いて危険予測能力が改善し,急ブレーキを踏む回数がなくなった.
症例の場合,自家用車とトラックの運転再開を希望しており,職場も同様であった.そのため,国リハにて普通自動車の実車評価を行い,指導員からはブレーキの踏み込みが甘いが,それ以外は丁寧な運転との評価を頂いた.その後,当院では,時期がコロナ禍で外来リハビリを中止していたため,自家用車は公安委員会の許可が出れば可能という段階まで進んだ.しかし,トラックの運転再開までの支援は行えなかった.
【退院後】職場復帰は,週3日から開始し,通勤は徒歩.発症から6カ月経過後に,運転試験場にて臨時適性検査を行い,公安委員会の許可を得て,運転再開に繋がった.当日は自家用車の運転を再開し,翌日に15tのトラックを職場の許可を経て半日程度の運転から再開した.運転再開後,事故は起こしていない.
【現在の支援体制の課題】
症例からは,職業ドライバーへの支援環境の少なさに不安を感じているとの相談があった.
なお,国リハや当院と連携している教習所にて,トラックの運転再開に向けた実車評価や練習は行っていない.
その理由としては,トラックの運転再開を必要としている人数がまだ少なく,そのニーズを社会的にくみ取りきれていない実情があるからだと考える.また,大型自動車の運転には大型免許が必要で,普通自動車よりも運転の難易度が高い.加えて,事故を起こした際の影響も甚大となる可能性を秘めているため,体制構築に難渋している実情が伺える.今後,トラックの運転再開についても体制づくりを社会的に検討していく必要があると考える.
【文献】
1) 堀川悦夫,小野茂伸,琴浦健二,南里悠介,好川直樹,他:運転中に脳梗塞発症のプロドライバーが,運転リハビリテーションを経て運転免許再取得と復職に至る過程からの示唆,Jpn J Rehabil Med 53:560-563,2016.
2) 日本リハビリテーション医学会 臨床医のための脳卒中・脳外傷者の自動車運転に関する指導指針策定委員会編:脳卒中・脳外傷者の自動車運転に関する指導指針,新興医学出版社,2021.
【目的】大型トラックの運転再開に向けた支援体制を構築していくきっかけにすること.
【対象】当院回復期病棟に入院した視床出血の50代男性.
【方法】発症から6カ月後に電話にて,現在の運転状況と必要と感じた支援を本人から聴取.
【症例紹介】現在勤めている職場に20年勤務.運転歴25年.12tのトラックを運転しており事故歴はない.
【経過】入院時:Brs上肢Ⅵ,手指Ⅵ,下肢Ⅵであったが,覚醒状態が低下していたため,ADL全般に見守りが必要であった.退院時のFIMは121点でほぼ自立し,MMSE27点,TMT-JのAは正常,Bは境界,BADSは17点,コース立方体テストはIQ約85,SDSAは合格であった.ホンダ技研のドライビングシュミレーターによる評価では同年代と比較して反応速度が遅く,危険予測体験中級では事故は0だが,上級や総合学習体験で複数回事故を起こしていた.原因は危険予測の不十分さと,ブレーキ操作が遅いことであった.本人が急ブレーキをしたくないと考えており,心理面とこれまでの運転方法からブレーキの遅さに繋がっていた.しかし,JAFの危険予知・事故回避トレーニングを用いて危険予測能力が改善し,急ブレーキを踏む回数がなくなった.
症例の場合,自家用車とトラックの運転再開を希望しており,職場も同様であった.そのため,国リハにて普通自動車の実車評価を行い,指導員からはブレーキの踏み込みが甘いが,それ以外は丁寧な運転との評価を頂いた.その後,当院では,時期がコロナ禍で外来リハビリを中止していたため,自家用車は公安委員会の許可が出れば可能という段階まで進んだ.しかし,トラックの運転再開までの支援は行えなかった.
【退院後】職場復帰は,週3日から開始し,通勤は徒歩.発症から6カ月経過後に,運転試験場にて臨時適性検査を行い,公安委員会の許可を得て,運転再開に繋がった.当日は自家用車の運転を再開し,翌日に15tのトラックを職場の許可を経て半日程度の運転から再開した.運転再開後,事故は起こしていない.
【現在の支援体制の課題】
症例からは,職業ドライバーへの支援環境の少なさに不安を感じているとの相談があった.
なお,国リハや当院と連携している教習所にて,トラックの運転再開に向けた実車評価や練習は行っていない.
その理由としては,トラックの運転再開を必要としている人数がまだ少なく,そのニーズを社会的にくみ取りきれていない実情があるからだと考える.また,大型自動車の運転には大型免許が必要で,普通自動車よりも運転の難易度が高い.加えて,事故を起こした際の影響も甚大となる可能性を秘めているため,体制構築に難渋している実情が伺える.今後,トラックの運転再開についても体制づくりを社会的に検討していく必要があると考える.
【文献】
1) 堀川悦夫,小野茂伸,琴浦健二,南里悠介,好川直樹,他:運転中に脳梗塞発症のプロドライバーが,運転リハビリテーションを経て運転免許再取得と復職に至る過程からの示唆,Jpn J Rehabil Med 53:560-563,2016.
2) 日本リハビリテーション医学会 臨床医のための脳卒中・脳外傷者の自動車運転に関する指導指針策定委員会編:脳卒中・脳外傷者の自動車運転に関する指導指針,新興医学出版社,2021.