第56回日本作業療法学会

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ポスター

認知障害(高次脳機能障害を含む)

[PK-7] ポスター:認知障害(高次脳機能障害を含む) 7

Sat. Sep 17, 2022 1:30 PM - 2:30 PM ポスター会場 (イベントホール)

[PK-7-4] ポスター:認知障害(高次脳機能障害を含む) 7認知症に関連する排泄トラブルの解釈と対処

介護者の思考の質的分析結果より

浅野 朝秋1王 治文2小野 肖奈3石川 隆志1 (1秋田大学医学部保健学科作業療法学専攻,2東北文化学園大学医療福祉学部リハビリテーション学科作業療法専攻,3医療法人正観会 御野場病院)

【背景】
わが国の認知症者の大半は,軽度者を中心に自宅で家族介護や介護保険サービスを利用しながら生活している.認知症者は同年代の非認知症者に比べて失禁のリスクが高いことが知られており,なおかつ失禁は施設入所のリスクファクターであることも報告されている.したがって認知症者の失禁などの排泄トラブルを軽減することは,在宅生活延伸につながる可能性が高い.本研究では,在宅の認知症者の排泄トラブルにはどのような事象が存在するか分類し,それぞれの事象に対する介護者の解釈と実際の対応を把握し,排泄トラブルの改善可能性について検討した.
【方法】
 在宅での認知症介護の経験がある家族5名と,通所系の介護保険施設に勤務する介護職員4名,及び認知症者の排泄介助経験がある作業療法士4名に半構成的インタビューを実施した.インタビュー内容は,①排泄関連のトラブル事象にはどのようなものがあったか? ②その事象をどのように解釈したか? ③その事象に対しての対処内容と結果 の3点である.尚,本研究目的は,介護者の思考を把握することにあったため,作業療法士の思考は今回分析対象としなかった.
 思考内容が分析対象であり分析の枠組みがあらかじめ決まっていたので,質的研究方法の一つであるFramework法を用いた.インタビューで得られた意味コードを,①問題事象 ②家族による事象解釈と対応 ③介護職員による事象解釈と対応,に割り付け各枠内で類似性によりカテゴリー分類と階層化をおこなった.また参加者の意味コードからストーリーラインを作成し,参加者毎の理論記述を作成した.さらに各カテゴリーを横軸,各参加者の理論記述を縦軸とするマトリックスを作成し最終的な理論記述を得た.尚,本研究は筆頭演者が所属する倫理委員会の承認を受けて実施された.
【結果】
 排泄トラブル事象に関しては,93個の意味コードが得られ,43個の一次カテゴリーと「トイレの機器操作の失敗」など10個の二次カテゴリーに収斂された.各トラブル事象に対する家族介護者の解釈と対応に関しては64個の意味コードが得られ,49個の一次カテゴリー,19個の二次カテゴリーを経て,最終的に「認知症の不可思議さ」など4個の三次カテゴリーに収斂された.同様にトラブル事象に対する介護職員の解釈と対応に関しては60個の意味コードが得られ,40個の一次カテゴリー,17個の二次カテゴリーを経て最終的に「排泄トラブルの解釈」など3個の三次カテゴリーに収斂された.最終理論記述としては,①家族は排泄トラブルを本人の経験や性格を加えて解釈しているが,介護職員は主に認知症と言う病気で解釈していること,②家族は昔のようにしっかりしてほしいという思いと家を汚されたくないという気持ちから自分なりに様々な工夫を試みているが,介護職員は失禁を受け入れていること,③介護職員は本人の自尊心を尊重していること,④家族も介護職員も本人との意思疎通に苦しんでいるが,介護職員は経験的にうまくいった方法で対応している.しかし家族は経験の少なさから時には力づくでの介助や,反対に一切の対応をあきらめて後片付けに専念する場合もあること,⑤家族も介護職員も,認知症者が記憶障害や理解力低下を有することはよく把握しているが,それ以外の特性は知られていないこと,といった結果が得られた.
【考察】
 これらの結果から,作業療法士は本人に在宅でしてほしいことを,家族やケアマネージャ,介護職員等に伝える際,その内容を伝えるだけではなく,認知症者との意思疎通の工夫や,記憶障害や理解力低下以外の障害特性などをあわせて情報提供することが有用な可能性が示唆された.