[PL-1-3] ポスター:援助機器 1意思伝達装置の導入により生活行為の目標が明確になったALSの一症例
クライエントと作業療法士の心理的変化に着目して
【はじめに】筋萎縮性側索硬化症(以下,ALS)患者への意思伝達装置の導入過程で,目標を協働的に設定することができたため,経過を報告する.なお,発表に際して説明を行い,文書にて本人と家族の同意を得ている.
【目的】意思伝達装置によるALS患者の発言内容を,筆者がどのように受け止め,作業療法を実践したかを,症例と筆者の想いの変化に着目し振り返り,生活行為の目標が明確になった要因について考察することである.
【方法】<症例>A氏,60歳代の男性.X年にALSと診断を受けた.X+2年Y月に気管切開による人工呼吸器管理,胃瘻造設を行った.Y+2月に当院入院し,自宅退院に向けてリハビリテーションを開始した.ALSFRS―R13/48点,筋力(MMT)は左右とも上肢1~2,下肢は3,ADLは全介助であった.<方法>カルテの記載を参照し,経過と共に,筆者自身の想いを振り返り言語化した.
【経過】生活行為の目標に関するA氏の発言内容の変化に着目して3期に分ける.
1)身体機能の変化により生活の想像が難しかった時期(Y+2月頃)
発声や書字,パソコン操作は困難であった.理解面は問題なく,文字盤にて単語レベルの表出が可能であった.A氏の希望は「歩きたい」であり,その他の希望を表出することはなかった.将来の生活を想像できる段階ではなく,身体に関する希望を表出していると受け止めた.意思伝達装置のデモ機レンタルを開始した.
2)病前の生活と将来の生活につながりを見つけた時期(Y+3月頃)
左示指のスイッチ操作で,単語で答えられる質問への返答練習から開始した.印象に残った会話がある.病前は長めのウォーキングをしていたというA氏に,筆者が「どのくらい?」と尋ねると,A氏が「30キロ」と入力した.「30」の時点で30分だと想像した筆者はその返答に驚き,A氏と笑い合った.この時にA氏の緊張がほぐれた様子を感じ,A氏から筆者に質問する日も設け,互いに自身のエピソードを共有した.ウォーキング仲間がいること,家の中で好きな場所はソファであること,孫と観たハリーポッターをもう1度観たいことなどが分かった.身体だけでなく生活にも意識が向き,「家で好きな映画やドラマを観る」という目標を共有した.
3)生活について想いを表出できるようになった時期(Y+4月頃)
質問形式では返答を得ることができたが,A氏が自発的に想いを表出することはなかった.視線入力とスイッチ操作の併用で,文章入力の練習として,妻や趣味の仲間へメッセージ作成に取り組んだ.その後,多職種カンファレンスに向けて文章を作成した際は,一度入力を終えた文章の編集を自ら希望し,数日かけて完成させた.意思伝達装置の導入を決定し,Y+6月に自宅退院となった.「妻がこれまで通り日課をこなせるように」というA氏の希望もあり,妻の外出や休息にも考慮し,在宅サービスを利用している.
【考察】意思伝達装置の導入により生活行為の目標が明確になった要因について以下に考察する.
1つめは,A氏にとって意味のある作業を共有できたことである.操作練習として具体的かつ個人的な過去の経験を共に振り返ることで,A氏が大切に思っている経験や対人関係を知ることができた.2つめは,A氏が想いを表出するきっかけとなったことである.練習としてテーマを提示し,意思伝達装置でA氏の言葉を他者に伝える場面を作った.文字盤の使用や読唇では,受け手側も練習が必要であり,様々な相手に正確に言葉を伝える手段として意思伝達装置が重要な役割を果たした.これらの要因により,他者との関係性を再構築しながら,病前の生活とのつながりを見出し,将来の目標を協働的に設定できたと考える.
【目的】意思伝達装置によるALS患者の発言内容を,筆者がどのように受け止め,作業療法を実践したかを,症例と筆者の想いの変化に着目し振り返り,生活行為の目標が明確になった要因について考察することである.
【方法】<症例>A氏,60歳代の男性.X年にALSと診断を受けた.X+2年Y月に気管切開による人工呼吸器管理,胃瘻造設を行った.Y+2月に当院入院し,自宅退院に向けてリハビリテーションを開始した.ALSFRS―R13/48点,筋力(MMT)は左右とも上肢1~2,下肢は3,ADLは全介助であった.<方法>カルテの記載を参照し,経過と共に,筆者自身の想いを振り返り言語化した.
【経過】生活行為の目標に関するA氏の発言内容の変化に着目して3期に分ける.
1)身体機能の変化により生活の想像が難しかった時期(Y+2月頃)
発声や書字,パソコン操作は困難であった.理解面は問題なく,文字盤にて単語レベルの表出が可能であった.A氏の希望は「歩きたい」であり,その他の希望を表出することはなかった.将来の生活を想像できる段階ではなく,身体に関する希望を表出していると受け止めた.意思伝達装置のデモ機レンタルを開始した.
2)病前の生活と将来の生活につながりを見つけた時期(Y+3月頃)
左示指のスイッチ操作で,単語で答えられる質問への返答練習から開始した.印象に残った会話がある.病前は長めのウォーキングをしていたというA氏に,筆者が「どのくらい?」と尋ねると,A氏が「30キロ」と入力した.「30」の時点で30分だと想像した筆者はその返答に驚き,A氏と笑い合った.この時にA氏の緊張がほぐれた様子を感じ,A氏から筆者に質問する日も設け,互いに自身のエピソードを共有した.ウォーキング仲間がいること,家の中で好きな場所はソファであること,孫と観たハリーポッターをもう1度観たいことなどが分かった.身体だけでなく生活にも意識が向き,「家で好きな映画やドラマを観る」という目標を共有した.
3)生活について想いを表出できるようになった時期(Y+4月頃)
質問形式では返答を得ることができたが,A氏が自発的に想いを表出することはなかった.視線入力とスイッチ操作の併用で,文章入力の練習として,妻や趣味の仲間へメッセージ作成に取り組んだ.その後,多職種カンファレンスに向けて文章を作成した際は,一度入力を終えた文章の編集を自ら希望し,数日かけて完成させた.意思伝達装置の導入を決定し,Y+6月に自宅退院となった.「妻がこれまで通り日課をこなせるように」というA氏の希望もあり,妻の外出や休息にも考慮し,在宅サービスを利用している.
【考察】意思伝達装置の導入により生活行為の目標が明確になった要因について以下に考察する.
1つめは,A氏にとって意味のある作業を共有できたことである.操作練習として具体的かつ個人的な過去の経験を共に振り返ることで,A氏が大切に思っている経験や対人関係を知ることができた.2つめは,A氏が想いを表出するきっかけとなったことである.練習としてテーマを提示し,意思伝達装置でA氏の言葉を他者に伝える場面を作った.文字盤の使用や読唇では,受け手側も練習が必要であり,様々な相手に正確に言葉を伝える手段として意思伝達装置が重要な役割を果たした.これらの要因により,他者との関係性を再構築しながら,病前の生活とのつながりを見出し,将来の目標を協働的に設定できたと考える.