第56回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

援助機器

[PL-3] ポスター:援助機器 3

2022年9月17日(土) 10:30 〜 11:30 ポスター会場 (イベントホール)

[PL-3-2] ポスター:援助機器 3横軸形成障害を有する乳児に対する自助具作製の介入

秋山 恭延1高嶋 俊治2鈴木 晶子1 (1JA静岡厚生連 遠州病院リハビリテーション科,2浜松医科大学医学部附属病院リハビリテーション部)

はじめに】今回,上肢の先天性異常を有する乳児に対して,母親の希望により,両手で哺乳瓶が保持できるよう2種類の自助具を作製した.母親は,障がいを持った娘が今後どのような事で困り,その事に対してどう対処していったら良いのか,漠然とした不安を抱いていた.今回,哺乳瓶が保持できないという具体的な問題に対して,作業療法(以下,OT)の介入が,母親への心理的なサポートにも繋がったため,以下報告する.尚,本学会への発表に関し,事例の母親へ口頭と文書により十分な説明を行い,承諾を得ている.
【事例紹介】事例は,先天性左上肢形成不全(左手横軸形成障害 手根型)を有する乳児であり,当院での出産後,先天性異常を有していたため,小児科での定期検診においてフォローアップされている.左上肢以外の障がいや発達異常は認められていない.
【介入経過】生後約5ヶ月,小児科受診時に母親より「両手で哺乳瓶が上手く持てず,苛立って泣き出してしまうことがある」との相談があり,主治医よりリハビリテーション科へのOT介入が依頼される.母親の希望は,「一人で哺乳瓶からミルクが飲めるようになる」ことであり,その他に気になることや困っている相談は聞かれなかった.OTでは,哺乳瓶を両手で保持するための動作に関する評価を行った後,自助具の作製を行った.実際にOTで作製した自助具は以下の2種類である.
1)自助具1:左手と哺乳瓶の太さに合わせて,幅が約25mmの輪をそれぞれスプリント材で作製し,2つの輪を8の字状に接着.そして,1つの輪を哺乳瓶に通した状態で固定した後,もう一つの輪を左手に通した状態で哺乳瓶が保持しやすいよう角度調整を行った.作製の後,実際に動作評価を行ってみたところ,哺乳瓶に固定された輪に左手を通すことで,両手で哺乳瓶からミルクを自ら飲むことが可能となったため,実際の場面で使用してみることとした.
2)自助具2:その1ヶ月後の来院の際,母親より,哺乳瓶を保持し,両手でミルクが飲めるようになったが,「他の哺乳瓶と各々の太さが違うため,太さの違う哺乳瓶にも装着できと良い」との相談があった.そのため,哺乳瓶の固定部分をスプリント材から伸縮性のベルトタイプのものに変更し,左手を通す輪をベルトで固定できるタイプのものを再作製する.これにより,他の太さの違う哺乳瓶にも装着が可能となった.
 生後,約8ヶ月の来院時,自助具無しでも両手で哺乳瓶が保持可能となり,自助具は不要となった.また,母親より「玩具なども上手く持てない時もあるが,左手を使用する場面が増えてきた」との話が聞かれた.その後,定期受診などで来院の際,困ったことがあれば,OTはいつでも気軽に相談できる場であることを伝え,今回の相談に対しての介入は終了となった.
【考察およびまとめ】
今回,上肢の先天性異常を有する乳児に対して,OT介入を行った.当初,他の乳児が行える動作が困難であることに対する不安からの相談であったが,自助具を作製したことで問題解決に至った.今回作製した自助具は一時的な使用ではあったが,今回のOT介入が,今後,事例が成長していく中で生じる可能性のある様々な問題に対して,いつでも相談できる場があることを,母親自身に認識して頂いたことで,これまで漠然と抱いていた不安解消の一助になったものと考える.