第56回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

MTDLP

[PM-2] ポスター:MTDLP 2

2022年9月16日(金) 15:00 〜 16:00 ポスター会場 (イベントホール)

[PM-2-2] ポスター:MTDLP 2生活行為向上マネジメントを活用し通園に向けて準備した中で,集団生活の輪に主体的に参加出来るようになった事例

飛永 昂志1兵道 哲彦1栗原 将太1 (1飯塚病院リハビリテーション部)

【はじめに】今回,知的障害を伴う自閉症スペクトラム症の診断のある通園予定のAくんを担当した.Aくんの母親は,子どもが集団保育に参加することに対して,不安と焦りが生じていた.そこで,保育園の通園に向けた円滑な支援を目的に生活行為向上マネジメント(以下MTDLP)を活用した.その結果,保育園で主体的に友達の輪に入ることができ,母親の安心感に繋がったので考察を踏まえ報告する.なお,本報告は口頭及び書面にて同意を得た.
【事例紹介】2歳代の男児.利き手は未獲得.家族構成は5人暮らしで,父・母・3人兄弟の第3子.車の玩具が好き.現病歴は,1歳6ヶ月健診時に発達支援センターの紹介で当院を受診.当院にて,新版K式発達検査2001を行い,知的発達の遅れを伴う自閉症スペクトラムと診断.外来リハビリテーション(以下リハ)で,コミュニケーション面の向上を目的に,作業療法(以下OT)が開始.Aくんに対して,両親の主訴は,「言葉が伸びないこと,集中できないこと」であった.また,母親は育児休暇中であり,仕事復帰を検討していたが,Aくんの集団保育への参加に対して不安が強く,現状の生活を変えずに過ごしていた.
【作業療法評価】行動観察と聞き取りによる評価を実施した.リハ場面では,入室は困難で,泣き出してしまい,母子分離は難しい.こだわりは見られない.三項関係は未獲得.姿勢変換が起きやすい.上肢機能面では,握り方は手掌握り.目と手の協調性は拙劣で,リーチ先を見ていない.やりとりは,目線は合うが外れやすい.要求はクレーン現象だが,指差しは少ない.要求は転々とするため,内容が共有しにくい.OTの接近に背を向けてしまう.日常生活動作(以下ADL)は,Wee FIM:29点.食事:手づかみ3点.合意目標は,6ヶ月後「保育園で,担任の保育士が間に入る中で友達の輪に主体的に参加できる」とし,実行度0,満足度0.
【介入経過】Aくんの不安が強く,まずOTに慣れることを目標.Aくんは,「車が好き」なため,ブランコの動きを車に見立てて,「ぶーん」とオノマトペを使用.興味関心が見られ,自ら近づき触り始めたところで,母親と一緒に乗ってもらう.ブランコの動きに変化がつけることで,姿勢バランスを要求した.変化を楽しむ様子があったため,「もう1回やる人―?」の声掛けで,非言語性の意思表示の練習も進めた.通園開始前には,母親を通して保育士に,無理な集団への参加は避け,まずは保育士との関係性の構築について提案し,通園の準備を行った.家族指導では,対子ども間のやりとりのため,積極的な兄弟間のやりとりを伝えた.また,保育園での机上活動も視野に入れ,ブロックやパズルを行い,目と手の協調性の向上や手指のつまみ動作の獲得を図った.
【結果】アイコンタクトは合いやすくなり,人の声にも定位しやすくなったことで待つことが可能,他者と対峙して挨拶することも可能となった.保育園でも自ら友達の輪に入り,担任の保育士が間に入ることで楽しく遊べる場面も増え遊びの提案にも参加する場面が増えた.合意目標に対して実行度10,満足度10と向上した.
【考察】今回,MTDLPを活用し,Aくんの課題の整理と合意目標を母親と共有したことで,母親もAくんの成長を感じることができ,安心感に繋がったと思われる.また,他職種と連携を図ることで,主体的な友達の輪への参加だけでなく,食事場面で離席が軽減するなど,他の生活行為にも繋がることができた.今後は,知的障害の診断もあり,ADL能力や問題解決能力への支援のために他職種マネジメントの継続は必要と考え,MTDLPを基に,その有用性を示していきたい.