第56回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

地域

[PN-5] ポスター:地域 5

2022年9月16日(金) 16:00 〜 17:00 ポスター会場 (イベントホール)

[PN-5-3] ポスター:地域 5作業療法理論を応用した健康経営アプローチによる労働損失軽減効果

元廣 惇1藤井 寛幸1 (1株式会社Canvas)

【はじめに】 
 一般労働市場における健康経営の社会的注目度が近年増してきている.経済産業省によるとヘルスケア産業のうち「健康保持・増進に働きかけるもの」の市場規模は2016年の9.2兆円から2025年には12.5兆円に膨らむと試算しており,健康経営に取り組む事業者を増加させるために「健康経営銘柄」の認定制度を構築し,企業に対して一定のインセンティブをつけている.また一般労働市場を対象とした医師,保健師,理学療法士などの知見を活かしたヘルスケア企業も国内で散見される.しかしながら作業療法の観点を取り入れた健康経営事業の実施例は未だ国内で見当たらず,報告も未だないのが現状である.
 島根県松江市の株式会社Canvasはこうした現状を鑑みて,中小企業を対象に作業療法理論を応用した新たな健康経営サービス(以下本サービス)を産官学金と連携して展開している.既存の理学療法士が行う健康経営事業では,主に就労によって生じる痛み自体の解消や個別の運動機能へのアプローチなど「身体」に焦点が当てられていたが,本サービスは人・作業・環境の観点から分析されるその職種特有の「職業病」に焦点を当てて,従業員や経営者をワークショップなどを通じてエンパワメントすることで持続可能な解決策を導き,企業の労働生産性向上などのベネフィットを生み出すアプローチである.
 今回,本サービスを導入した中小企業を対象に予備的にサービス導入の効果を検証した結果,導入前後での労働生産損失額の変化を認めたため報告する.
【方法】
 研究対象者は2021年〜2022年に本サービスを受けた中小企業4事業所(製造業・塗装業・保育業・オフィスワーク)に所属する従業員64名(男性42名,女性22名,年齢41.3±8.5)とした.対象者へのサービス導入前後に自記式のアンケートにてQuality and Quantity Method (QQ)を実施し,年間生じている労働生産損失額(1日当たりの労働生産額を10,000円と仮定)及びその項目を算出した.前後の労働生産損失額を対応のあるt検定にて比較を行った.統計解析はSPSS version 26.0 for Windowsを用いて
行った.p値0.05未満を統計的に有意とした.
【結果】
 労働生産損失に影響を与える要因として「首の不調と肩こり」「腰痛」「倦怠感・疲労感」の順で労働生産損失額が多かった.全従業員の介入前の労働生産損失額平均値は4,315,000円,介入後の労働生産損失額平均値は1,640,000円であった.介入前後の労働生産損失額において有意な変化を認めた(p<0.05).
【考察】
 作業療法理論を応用した健康経営サービスが中小企業の従業員の労働生産性向上に一定の効果を示した.今回の測定変数である労働生産損失額はフィジカル面の問題のみでなく,従業員の企業内のフォロワーシップや管理者のサポートなど様々な変数が結果に関与することが想定されるため,より今回のアプローチの特徴が奏功した可能性がある.ただしこれらはあくまで仮説であり,今後はサービス未実施の統制群の設定や本サービスの結果に影響を与えたと思われる未測定変数である従業員同士の関係性やワークエンゲージメントなどの心理社会学的変数等について調査を継続する必要がある.それらの調査に基づき健康関連アウトカムと労働生産性(休職・退職含む)との間にどのような因果モデルが構築できるかを検討していくことが介入モデルの一般化において重要となる.
COI:本研究においてCOI関係にある企業・団体等はありません.