第56回日本作業療法学会

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[PN-9] ポスター:地域 9

2022年9月17日(土) 13:30 〜 14:30 ポスター会場 (イベントホール)

[PN-9-2] ポスター:地域 9当施設利用者における公共交通機関の利用再開できなかった要因の検討

二村 元気12 (1医療法人社団三雍会古賀整形外科,2東京都立大学人間健康科学研究科作業療法科学域研究生)

【はじめに】地域で生活をする高齢者にとって公共交通機関の利用の可否は,活動の内容に大きな影響を与える.演者が勤務する通所リハにも公共交通機関の利用再開を目標にプログラムを提供する高齢者は多くいる.当施設では,近隣にバスや電車の停留所があり,送迎時や屋外歩行時にバスや電車等の公共交通機関を利用する社会適応プログラムを行っており,その結果,利用を再開できる者もいるが,一方で担当OTRの客観的評価では実用レベルだと判断されるも利用再開できない者もいる.そこで,利用再開に至らなかった事例を通して利用再開に至らなかった要因の検討を行うこととした.
【事例紹介】対象は2021年度に演者の所属する通所リハを利用し,公共交通機関の利用再開を目的にプログラム提供を行うも利用再開に至らなかった高齢者3名である.尚本報告に対し,対象者並びにその家族からの承諾を得ている.
Aさん:80歳代男性,要介護1,大腿骨転子部骨折,通所リハ開始時の移動レベルは屋内が伝い歩き,屋外は車いすを使用していた.移動能力の向上を目標に下肢筋力向上訓練等の基本的プログラムを経て屋外杖歩行,階段昇降等の応用的プログラムの実施.屋外歩行時や送迎時に電車乗車練習の社会適応プログラムを行うも通所リハ利用時以外には利用はしなかった.利用しない理由を尋ねると「どこにも行く用事がないから」と答えた.
Bさん:70歳代女性,要支援2.腰椎圧迫骨折.通所リハ開始時の移動レベルは屋内がずり這い,屋外は車いすを使用していた.移動能力の向上を目標に下肢筋力向上訓練等の基本的プログラムを経て屋外歩行車歩行,段差昇降の応用的プログラムの実施.屋外歩行時にバス乗車練習の社会適応プログラムを行うも通所リハ利用時以外には利用はしなかった.利用しない理由を尋ねると「バスは急に発車したり停車するので揺れが怖い」と答えた.
Cさん:90歳代女性,要支援2.腰椎圧迫骨折.通所リハ開始時の移動レベルは屋内が歩行器歩行,屋外は車いすを使用していた.移動能力の向上を目標に下肢筋力向上訓練等の基本的プログラムを経て屋外歩行車歩行,段差の乗り越え等の応用的プログラムの実施.送迎時に路面電車乗車練習の社会適応プログラムを行うも通所リハ利用時以外には利用はしなかった.利用しない理由を尋ねると「歩行車のまま電車に乗るのは周りの目が怖い」「また転ぶんじゃないかと娘に止められている」と答えた.
【考察】全員が実用レベルであると判断するも3名とも利用再開に至らなかったことから,身体機能以外の原因が挙げられると考える.A氏は病前から友人との交流や買い物等の習慣もなく,公共交通機関利用再開後の目的を持つことができなかったことができなかった.
 また,B氏とC氏は,実場面を経験し少なからず外出時の転倒リスクを感じ,以前とは異なり福祉用具を使用することで,自信をなくしてしまったことも考えられる.また,C氏は家族の了承が得れなかったことも,利用再開に至らなかった要因であった.このことから,動機づけや環境が大きな要因であったことが考えられる.
 しかし,3名とも模擬環境での応用練習のみでは利用の可否に関して判断することができなかった.利用再開には至らなかったが,実場面での社会適応プログラムを経ることは,課題の困難さや自身の能力の再認識を促し,現実検討を行うことに有効であったと思われる.現制度上では通所リハスタッフによる実場面への同行は行い難いが,地域で生活する高齢者の公共交通機関利用再開の可否を決定するためには,今後OT等の専門職種が同行できる仕組みを作ることが重要だと考えられる.