第56回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

基礎研究

[PP-2] ポスター:基礎研究 2/内科疾患 1

2022年9月16日(金) 15:00 〜 16:00 ポスター会場 (イベントホール)

[PP-2-5] ポスター:基礎研究 2作業療法前後での健康関連QOLの変化とMCIDの解明

運動器,心大血管,呼吸器疾患での調査

泉 良太1佐野 哲也1能登 真一2山田 祐花子3塚越 大智4 (1聖隷クリストファー大学,2新潟医療福祉大学,3浜松市リハビリテーション病院,4信州大学医学部附属病院)

【背景】近年,リハビリテーション(リハ)分野においても健康関連QOL(HRQOL)尺度を用いた研究が散見されるようになった.先行研究において,脳血管疾患における作業療法前後でのHRQOLのMinimal Clinically Important Difference(MCID:臨床的に意義のある最小変化量)については報告されている(Izumi, et al, 2018).しかし,運動器,心大血管,呼吸器疾患についての国内での報告はない.
【目的】脳血管疾患を除く,疾患別リハ分類である,運動器,心大血管,呼吸器疾患患者のHRQOLの変化量およびMCIDを解明することである.
【方法】多施設間縦断的研究とし,対象は疾患別リハ分類に基づき,作業療法を受ける運動器,心大血管,呼吸器疾患患者とし,MMSEが23点以下,本人回答が困難なものは除外した.評価時期は初期評価時(初期評価)と初期評価から1ヵ月後または退院転院時(再評価)に実施し,HRQOL尺度には,EQ-5D-5L,SF-36,ADL尺度にはFIMを用いた.EQ-5D-5Lは,移動の程度,身の回りの管理,ふだんの活動,痛み/不快感,不安/ふさぎ込みという5つの健康領域に関して,5つの選択肢から健康状態を選択する質問票であり,QOL値は1.00~-0.025を示す.SF-36は,8つの健康概念(身体機能(PF),日常役割機能(身体)(RP),体の痛み(BP),社会生活機能(SF),全体的健康感(GH),活力(VT),日常役割機能(精神)(RE),心の健康(MH))の各健康概念で国標標準値を50としたQOL値を算出でき,両尺度ともに値が高いほどQOLが高いことを示す.統計解析については,Stata16.1を用い,前後比較にはWilcoxon符号付順位和検定を実施し,有意水準は5%とした.MCIDはDistribution-based methodsを用いて算出した.本研究の実施に当たっては,協力病院および本学倫理委員会の審査と承認を得ており,本人の同意を得た.また,本研究に関連し,開示すべきCOI関係にある企業等はない.
【結果】対象は運動器65名,心大血管疾患26名,呼吸器10名であり,疾患ごとの平均年齢はそれぞれ77.2歳,67.7歳,76.6歳であった.FIM合計は運動器(初期評価/再評価),85.7/104.9(p<0.001),心大血管73.1/106.5(p<0.001),呼吸器108.7/118.1(p=0.038)であり,全ての疾患で有意に向上した.HRQOLについて,EQ-5D-5Lでは,運動器0.51/0.74(p<0.001),心大血管0.46/0.67(p<0.001),呼吸器0.66/0.78(p=0.138)であり,呼吸器疾患以外で有意に向上した.SF-36については,運動器では全ての項目で有意に向上,心大血管ではRP,BPのみで差を認めず,呼吸器ではPFのみ有意な向上を認めた.MCIDについては,統計学的には有意に向上したにも関わらず,平均変化量がMCIDを超えなかった項目は,運動器(平均変化量/MCID)では,SF(7.3/8.4),GH(2.7/3.6),VT(4.9/5.9),心大血管では,SF(8.4/8.8)であった.一方,有意差がないにもかかわらず,平均変化量がMCIDを超えた項目は,呼吸器のEQ-5D-5L(0.11/0.10),VT(11.2/7.2)であった.
【考察】本研究により,統計学的な検定のみでは,Patient Reported Outcomeの1つであるHRQOL尺度での評価結果の解釈が困難であることが証明された.特に運動器については,3項目でMCIDを超えていなかったため,リハの効果検証に使用する際には留意すべきである.反対に,呼吸器では有意差を認めなくとも,MCIDを超えた項目があったため,その変化を見逃さずに示すことができた.MCIDは疾患の種類や重症度,病期によって異なるため,指標となるMCIDの値を調査していくことが望まれる.また,より感度の高い,疾患特異的尺度についても検討していく必要があると考える.