第56回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

教育

[PR-6] ポスター:教育 6

2022年9月17日(土) 13:30 〜 14:30 ポスター会場 (イベントホール)

[PR-6-4] ポスター:教育 6作業療法士経験を活かした特別支援教育実践例

書字学習から巧緻性が獲得され,ADLへの汎化に至った例

秋元 裕太朗1 (1群馬県立特別支援学校)

【はじめに】
 今回,作業療法士経験を活かした特別支援学校での教育の実践報告を行う.本報告に関して,本人と保護者に説明し了承を得た.
【事例紹介】
 特別支援学校高等部3年男子生徒.診断名はプラダウィリー症候群.精神発達,言語発達遅滞を認める.運動発達の遅れから歩行獲得が5歳であった.現在跛行が残存し扁平足だが,歩行は自立しており,ADL上は支障がない.コミュニケーション能力は,表出面では構音障害(発話明瞭度の評価尺度3)が目立ち,聞き取り側の推測が必要だが,単語や2語文までの発語がある.理解面では簡単な言語理解は可能であり,視覚的支援を活用することで活動や状況の理解ができる.四肢の著明なROM制限は認めず,MMTは四肢4,体幹筋群2~3相当.手内在筋(母指対立筋,短母子外転筋,背側骨間筋等)の筋萎縮が顕著で手指巧緻性低下あり.また,腹筋群の低緊張を認め,座位での骨盤後傾が強く,良肢位での座位姿勢の保持が難しい状態である.
 ADLでは,食事はスプーン使用で自力摂取可能だが,食物を非利き手で掴んだ後にスプーンの上に乗せてから口に運ぶなどスプーン操作は拙劣.更衣動作は,制服やワイシャツの着脱時のボタン操作に時間を要し,介助を必要とする場面もある.トイレ排泄は自立しているが,下衣操作のベルト脱着時やボタンの留め外しに介助を要す.前年度までの国語科の授業では,絵カードや写真を使った意味確認,平仮名スタンプを使った活動を行い,書字経験が少ない状況であった.国語に関連した保護者希望は「自分の名前を平仮名で書けるようになって欲しい」であり,学習状況や保護者希望を踏まえ,国語科の授業では書字学習を進める計画を立て実践した.
【支援内容】
 1~2学期の学習のねらいを,「①手指筋力・筆圧,②姿勢保持,③ペンの持ち方,④目と手の協応,⑤注意持続性」を高めたり,身に付けたりするよう,なぐり書き,色塗り,絵を書く,文字なぞりを中心に授業を実施.3学期の学習のねらいを,前学期のねらいの継続に加え,「⑤運筆の運動コントロール,⑥手指の巧緻性」を高められるよう,名前のなぞり書きや複写を中心に授業を実施.
【経過と結果】
 学習開始当初なぐり書きからの導入では,母指と示指の固定力低下から過剰な母内転による代償が目立った.母指内転を軽減できるよう,太柄のペンやクレヨンを使用し課題を実施.また,ペンに対して摩擦が強く手指に感覚が入力されやすい素材である画用紙を活用.2学期では,ペン固定の安定に伴い通常の鉛筆を導入し学習を進めた.しかし手指,手関節,前腕の複合的な運動の拙劣さが目立ってきたため,片手大のボールを把持した状態で手関節掌背屈や前腕回内外を行う運動を学習前の準備運動として導入.3学期になると,複合運動にわずかな改善がみられ,運筆操作に滑らかさが出現した.手指機能面だけでなく,知的水準や意欲や行動面の影響もあり,自力で名前を書くには至らなかったが,教師の援助のもと自分の名前を線に沿ってなぞれるようになり学習を終えた.書字訓練を通して現れたADL面の変化では,右手のみでスプーン操作で食物を掬ったり,口元まで運んだりすることができるようになった.更衣のボタン操作では,目で確認できる位置のボタン部分であれば,小さいスナップボタンであっても自身で行えるようになった.
【考察】
 特別支援学校では,障害による学習上又は生活上の困難を克服し自立を図るために必要な知識技能を授けることを目的とし,日々教育活動にあたる.本人の書字に対しての課題を,手指機能の詳細の評価と段階に応じた学習課題を導入できたことは,本事例に有効な教育実践となったことが示唆される.