[SS-1-3] 軽度認知障害のある高齢者の作業参加と環境要因,抑うつ,健康関連QOLの相互関係~健常者との比較検討~
【序論】軽度認知障害(以下,MCI)の約半数は5年以内に認知症に移行するとされるが,Shimadaら(2017)は,MCI者の43.7%が4年後の調査で正常に回復(以下,リバート)したことを報告している.一方,MCI者の抑うつは,認知症リスクが4.8倍高くなることが示され(Makizakoら,2016),抑うつの併存は健康関連QOLの低下に関連するとされている(Makiら,2014).MCI者も含んだ地域高齢者への作業療法において,川又ら(2010)は作業参加の促進により健康関連QOLが向上すること,Lamら(2010)は環境支援が抑うつを軽減することを報告している.しかし,地域在住高齢者の作業参加と環境要因,抑うつ,健康関連QOLの関連性について,MCIの有無がどのような違いを示すのかは明らかにされていない.
本研究の目的は,作業参加と環境要因,抑うつ,健康関連QOLの関係性について仮説モデルを作成し, MCI者と健常者間における違いを明らかにすることで,MCIからのリバートを促進する作業療法の構築につながる知見を得ることである.
【方法】対象は65歳以上の地域在住高齢者で,居宅サービスや総合事業の利用者,または地域で開催されている健康教室や高齢者サロン,ボランティアなどへの参加者207名とした.調査として,日本語版Montreal Cognitive Assessment(以下,MoCA-J),自記式作業遂行指標(以下,SOPI),包括的環境要因調査票簡易版(以下,CEQ),老年期うつ検査-15-日本語版(以下,GDS),SF12 Health Survey(以下,SF12)を実施した.調査期間は2020年3月1日から10月31日の間であった.分析には各調査の記述統計とMCI群と健常群の比較,相関分析による共変量の検討,構造方程式モデリングによる多重指標モデルの検討,多重指標モデルにおけるMCI群と健常群の多母集団同時分析を実施した.多母集団同時分析では,多重指標モデルの検討で採用されたモデルを用いて,配置不変性と測定不変性を比較し,適合度の高いモデルを採用して検討した.なお,本研究は人を対象とする医学系研究に関する倫理指針に基づき,倫理審査委員会の承認を得て実施した.
【結果】各調査の結果をMCI群と健常群で比較したところ,MCI群はCEQ得点が有意に低く,GDS得点は有意に高かった(p<.01).相関分析では,認知機能や作業参加,抑うつのいずれとも0.3以上の有意な相関(p<.01)が認められた要介護度を共変量として採用した.多重指標モデルの検討では,非有意となったパスを削除した修正モデルを採用し,適合度はCFIが0.972,TLIが0.970であった.このモデルの標準化係数は,環境要因から作業参加が0.630,環境要因から抑うつが-0.558と強く影響し,作業参加から健康関連QOLが0.557,抑うつから健康関連QOLが-0.561と強く影響していた.多母集団同時分析では修正モデルを用い,適合度の高かった配置不変性モデルが採用された.その結果,MCI群では健常群に比べ,環境要因から作業参加と抑うつに対する影響が強いこと,健康関連QOLに対して抑うつの影響が弱くなり,作業参加の影響が強くなる傾向を示した.また,MCI群の環境要因では,相互交流環境の因子負荷量が健常群より大きくなった.
【考察】結果より,MCI者の作業参加は健常者より環境要因の影響を強く受け,その作業参加が健康関連QOLに及ぼす影響も健常者より強いことが明らかとなった.これはMCIによって認知機能が低下すると,高齢者の作業参加や健康関連QOLを左右する要因として,生活環境,特に相互交流環境が重要になると解釈できる.この知見はMCIからのリバートを促進する作業療法において,CEQで捉えられる環境要因に着目することが有用である可能性を示している.
本研究の目的は,作業参加と環境要因,抑うつ,健康関連QOLの関係性について仮説モデルを作成し, MCI者と健常者間における違いを明らかにすることで,MCIからのリバートを促進する作業療法の構築につながる知見を得ることである.
【方法】対象は65歳以上の地域在住高齢者で,居宅サービスや総合事業の利用者,または地域で開催されている健康教室や高齢者サロン,ボランティアなどへの参加者207名とした.調査として,日本語版Montreal Cognitive Assessment(以下,MoCA-J),自記式作業遂行指標(以下,SOPI),包括的環境要因調査票簡易版(以下,CEQ),老年期うつ検査-15-日本語版(以下,GDS),SF12 Health Survey(以下,SF12)を実施した.調査期間は2020年3月1日から10月31日の間であった.分析には各調査の記述統計とMCI群と健常群の比較,相関分析による共変量の検討,構造方程式モデリングによる多重指標モデルの検討,多重指標モデルにおけるMCI群と健常群の多母集団同時分析を実施した.多母集団同時分析では,多重指標モデルの検討で採用されたモデルを用いて,配置不変性と測定不変性を比較し,適合度の高いモデルを採用して検討した.なお,本研究は人を対象とする医学系研究に関する倫理指針に基づき,倫理審査委員会の承認を得て実施した.
【結果】各調査の結果をMCI群と健常群で比較したところ,MCI群はCEQ得点が有意に低く,GDS得点は有意に高かった(p<.01).相関分析では,認知機能や作業参加,抑うつのいずれとも0.3以上の有意な相関(p<.01)が認められた要介護度を共変量として採用した.多重指標モデルの検討では,非有意となったパスを削除した修正モデルを採用し,適合度はCFIが0.972,TLIが0.970であった.このモデルの標準化係数は,環境要因から作業参加が0.630,環境要因から抑うつが-0.558と強く影響し,作業参加から健康関連QOLが0.557,抑うつから健康関連QOLが-0.561と強く影響していた.多母集団同時分析では修正モデルを用い,適合度の高かった配置不変性モデルが採用された.その結果,MCI群では健常群に比べ,環境要因から作業参加と抑うつに対する影響が強いこと,健康関連QOLに対して抑うつの影響が弱くなり,作業参加の影響が強くなる傾向を示した.また,MCI群の環境要因では,相互交流環境の因子負荷量が健常群より大きくなった.
【考察】結果より,MCI者の作業参加は健常者より環境要因の影響を強く受け,その作業参加が健康関連QOLに及ぼす影響も健常者より強いことが明らかとなった.これはMCIによって認知機能が低下すると,高齢者の作業参加や健康関連QOLを左右する要因として,生活環境,特に相互交流環境が重要になると解釈できる.この知見はMCIからのリバートを促進する作業療法において,CEQで捉えられる環境要因に着目することが有用である可能性を示している.