[OA-1-5] 重度失語症者と家族に対する作業療法実践
【はじめに】失語症者の支援において,小林ら(2007)は当事者と家族のアイデンティティの揺らぎ,Draperら(2007)は多様なストレス,を考慮する重要性を報告している.しかし,意思を評価する事が難しい対象者も少なくない.今回,回復期リハ病棟で重度ブローカ失語を呈し,意思疎通が難しく,気分の落ち込みが見られる事例と不安が強い妻を担当した.状況に応じて,COPM,APCDを用いて目標設定し,妻の作業にも介入した.その結果,作業ができるようになり,役割獲得や不安の緩和がみられ,効果的な支援に繋がったため報告する.なお本報告について,本人と家族の同意を得た.
【事例紹介】A氏,70代後半,男性.畑作業中に倒れ,救急搬送され,左塞栓性脳梗塞と診断.16病日に当院回復期リハ病棟に入棟.一軒家で妻と二人暮らし.習慣はカラオケ,畑仕事,家事,老人会活動で,家事,生活管理を担当.趣味や役割を通じて友人らと交流.妻は脳梗塞,頚椎症の既往があり,要介護1.
【評価】言語機能については,聴覚的理解は高頻度単語が5割程.表出は母音のあ,う程度.自発書字困難.読解は高頻度単語が5割程.コミュニケーションはYES/NO(頷き/首振り).面会時,妻は意思疎通ができないストレスや習慣,役割の変化で不安や疲労が見られた.入棟10日,妻に対してA氏に期待する事を尋ねる方法で実施したCOPMは友人とカラオケ,近所の人と挨拶,妻とコミュニケーション,料理,掃除が遂行スコア2.4,満足スコア2.4.BRSは左上肢Ⅴ,手指Ⅴ,下肢Ⅴ.感覚は左上下肢が鈍麻疑い.観察から,簡単な状況判断は可能,口腔顔面・発語・観念失行,注意障害,右視空間失認,構成障害を推察.FIMは62/126.役割は病者で,気分の落ち込みがあった.
【介入経過】COPMで挙がった作業を難易度を調節して取り組んだ.入棟4週,視覚・聴覚的理解の改善あり,APCDを実施.食事の準備,カラオケ,知人と話す,買い物に行く等の31作業をとても重要と分類し,その中から課題とする13作業を選び,目標設定した.窓ふき等少数の道具・工程の課題は援助なく課題達成.料理等複数の道具・工程の課題は道具の探索,量の調節等は非効果的だが,環境調節や少しの声掛けで課題達成.AMPS(掃除機,みそ汁課題)は運動技能1.6→2.1,プロセス技能0.4→1.4ロジットに改善.妻には作業の適切な援助方法やコミュニケーション方法を指導した.作業不均衡を呈する妻に対しては,作業に関する自己評価(OSA),作業質問紙(OQ)を実施.介入は,家事負担の軽減に訪問介護等の利用,休息時間の確保に面会や地域活動の調節を提案,また価値の高いA氏との買い物を協働した.
【結果】入棟23週で妻と協働して,役割の家事等の作業ができるようになり,精神的に安定し,自宅退院.A氏へのCOPMは,料理,掃除,会話,カラオケ,畑仕事が遂行スコア4.8,満足スコア4.8.聴覚的理解は簡単な日常会話可能.表出は挨拶や物の呼称が一部可能.書字は名前,高頻度単語が一部可能.読解は高頻度単語~短文が可能.コミュニケーションは,Yes/No,ジェスチャーとイラストも使用.BRSはすべてⅥ.感覚は左上下肢表在・深部が軽度鈍麻.高次脳機能障害は改善しているが残存.FIMは105/126.
【考察】Worrallら(2006)は失語症者の目標設定・共有の困難さを報告している.今回は状況に適した面接手段を用いた事が効果的で,A氏・家族が意思決定に参加して目標設定ができ,目標指向的な協働が促進された.作業はアイデンティティや有能感と関連があるとされており,意味のある作業を共有して,作業的視点に基づく介入を行うことは役割やアイデンティティの再構築に繫がり,心理・精神的にも効果的であった.失語症者と家族の支援には適切な面接手段を評価し,作業の可能化に向けた目標設定と協働に繋げる有効性が示唆された.
【事例紹介】A氏,70代後半,男性.畑作業中に倒れ,救急搬送され,左塞栓性脳梗塞と診断.16病日に当院回復期リハ病棟に入棟.一軒家で妻と二人暮らし.習慣はカラオケ,畑仕事,家事,老人会活動で,家事,生活管理を担当.趣味や役割を通じて友人らと交流.妻は脳梗塞,頚椎症の既往があり,要介護1.
【評価】言語機能については,聴覚的理解は高頻度単語が5割程.表出は母音のあ,う程度.自発書字困難.読解は高頻度単語が5割程.コミュニケーションはYES/NO(頷き/首振り).面会時,妻は意思疎通ができないストレスや習慣,役割の変化で不安や疲労が見られた.入棟10日,妻に対してA氏に期待する事を尋ねる方法で実施したCOPMは友人とカラオケ,近所の人と挨拶,妻とコミュニケーション,料理,掃除が遂行スコア2.4,満足スコア2.4.BRSは左上肢Ⅴ,手指Ⅴ,下肢Ⅴ.感覚は左上下肢が鈍麻疑い.観察から,簡単な状況判断は可能,口腔顔面・発語・観念失行,注意障害,右視空間失認,構成障害を推察.FIMは62/126.役割は病者で,気分の落ち込みがあった.
【介入経過】COPMで挙がった作業を難易度を調節して取り組んだ.入棟4週,視覚・聴覚的理解の改善あり,APCDを実施.食事の準備,カラオケ,知人と話す,買い物に行く等の31作業をとても重要と分類し,その中から課題とする13作業を選び,目標設定した.窓ふき等少数の道具・工程の課題は援助なく課題達成.料理等複数の道具・工程の課題は道具の探索,量の調節等は非効果的だが,環境調節や少しの声掛けで課題達成.AMPS(掃除機,みそ汁課題)は運動技能1.6→2.1,プロセス技能0.4→1.4ロジットに改善.妻には作業の適切な援助方法やコミュニケーション方法を指導した.作業不均衡を呈する妻に対しては,作業に関する自己評価(OSA),作業質問紙(OQ)を実施.介入は,家事負担の軽減に訪問介護等の利用,休息時間の確保に面会や地域活動の調節を提案,また価値の高いA氏との買い物を協働した.
【結果】入棟23週で妻と協働して,役割の家事等の作業ができるようになり,精神的に安定し,自宅退院.A氏へのCOPMは,料理,掃除,会話,カラオケ,畑仕事が遂行スコア4.8,満足スコア4.8.聴覚的理解は簡単な日常会話可能.表出は挨拶や物の呼称が一部可能.書字は名前,高頻度単語が一部可能.読解は高頻度単語~短文が可能.コミュニケーションは,Yes/No,ジェスチャーとイラストも使用.BRSはすべてⅥ.感覚は左上下肢表在・深部が軽度鈍麻.高次脳機能障害は改善しているが残存.FIMは105/126.
【考察】Worrallら(2006)は失語症者の目標設定・共有の困難さを報告している.今回は状況に適した面接手段を用いた事が効果的で,A氏・家族が意思決定に参加して目標設定ができ,目標指向的な協働が促進された.作業はアイデンティティや有能感と関連があるとされており,意味のある作業を共有して,作業的視点に基づく介入を行うことは役割やアイデンティティの再構築に繫がり,心理・精神的にも効果的であった.失語症者と家族の支援には適切な面接手段を評価し,作業の可能化に向けた目標設定と協働に繋げる有効性が示唆された.