第57回日本作業療法学会

講演情報

一般演題

脳血管疾患等

[OA-13] 一般演題:脳血管疾患等 13

2023年11月12日(日) 08:30 〜 09:30 第3会場 (会議場B1)

[OA-13-2] Graded Repetitive Arm Supplementary Program(GRASP)による上肢の機能と使用頻度の改善がADLやQOLの向上に繋がった脳卒中症例

上村 謙弥1, 近藤 理子1, 西塚 恭子1, 佐藤 加奈子2 (1.八戸市立市民病院リハビリテーション科, 2.八戸市立市民病院脳神経外科)

[はじめに]脳卒中による上肢麻痺の改善には練習の内容だけでなく量が重要とされるが,急性期の作業療法(OT)では練習時間や反復量が限られるため,効果的な自主練習が重要となる.GRASPは補足的な練習プログラムとして上肢の機能や使用頻度を改善する可能性があり,Fugl-Meyer Assessment上肢運動項目(FMA-U/E)にて10〜58点と幅広く適応できるが,本邦での臨床報告はほとんどない.今回,COVID-19を併発した脳卒中患者にGRASPを用いた結果,上肢の機能や使用頻度が改善し,日常生活動作(ADL)や生活の質(QOL)が向上したため報告する.尚,本報告について対象には事前に説明し,同意を得た.
[症例]右利きの60代男性で,病前ADLは自立していた.脳幹梗塞(MRI:右縦橋繊維を含む高信号域)の診断で当院へ入院し,同日にt-PA療法を施行した.初回評価ではJapan Coma Scale(JCS)にてⅠ-1で認知機能は良好であった.上肢機能はFMA-U/Eにて0点で,感覚障害はないが筋緊張低下を認めた.Motor Activity Log-14(MAL-14)にて麻痺手の使用頻度(AOU)および動作の質(QOM)は0点であった.基本動作は介助を要し,ADLはBarthel Index(BI)で10点であった.QOLはSF-36v2 Acuteにて身体的側面5.1および精神的側面48.8であった.希望は「左手が動くようになって欲しい,身の回りのことができるようになって家に帰りたい」であった.
[方法]作業療法士がHospital GRASP Level 1 Ver.2を英語から日本語へ翻訳した.OTではGRASPを用いた練習方法の設定・上肢機能の練習・ADL練習を実施した.自主練習では設定された内容を反復し,練習時間や麻痺手の使用場面を記録した.自主練習の目標時間は合計で60分/日としたが,体調に応じた調整を許可した.感染病棟におけるOTは当院の感染対策に則り,必要最小限の時間にて病棟内で実施した.
[経過]第3病日よりOTが開始された.第5病日に軽症COVID-19と診断されたが感染病棟でOTを継続し,GRASPの練習内容を設定した.第6病日にはFMA-U/Eにて10点に達したため,自動介助運動での自主練習を開始した.第13病日までの自主練習の時間は疲労によって30分/日未満であったが,練習の時間帯をアラームで管理したりOT直後に設定したりすることで,第14病日には60分/日に達した.第16病日に一般病棟へ転室し,FMA-U/Eにて23点となったため自主練習の一部を自動運動に切り替えた.第17病日には左手を補助的に使った車椅子のブレーキ・塵紙・下衣の操作が可能となり,第20病日には患者・家族の強い希望で自宅退院となったため通院リハビリテーションへ繋げた.
[結果]OTは一般病棟で60分/日を6日間と感染病棟で40分/日を7日間実施され,自主練習は平均30.6分/日を連続15日間行われた.最終評価ではJCSにて0で認知機能は良好であった.上肢機能はFMA-U/Eにて32点であり,屈筋群の僅かな筋緊張亢進を認めた.MAL-14にてAOU 0.38点およびQOM 0.5点であり,左手を補助的に使用していた.基本動作は車椅子移動にて自立し,ADLはBIにて75点であった.QOLはSF-36v2 Acuteにて身体的側面28.9および精神的側面48.6であった.所感として「GRASPは分かりやすかった.リハビリ頑張ります」と述べた.
[考察]本症例は,錐体路の直接損傷によって重度麻痺を呈した可能性が高いことに加え,感染病棟でのOTの時間も制限されたが,FMA-U/Eの改善度は臨床的に意味のある最小変化量とされる9〜10点を上回った.GRASPによる練習量の増加や動機付けられた麻痺手の使用が上肢機能の改善に寄与し,麻痺手の使用に伴う機能改善・麻痺手を用いたADL獲得・身体的側面のQOL向上は相互に作用したと推察する.