第57回日本作業療法学会

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一般演題

脳血管疾患等

[OA-13] 一般演題:脳血管疾患等 13

Sun. Nov 12, 2023 8:30 AM - 9:30 AM 第3会場 (会議場B1)

[OA-13-3] 脳卒中後上肢麻痺に対する評価法「Fugl-Meyer Assessment」の上肢項目における潜在ランク数の推定

原 健介1,2, 生野 公貴1, 竹林 崇2 (1.医療法人友紘会 西大和リハビリテーション病院リハビリテーション部, 2.大阪公立大学大学院 リハビリテーション学研究科)

【はじめに】脳卒中後の上肢運動麻痺に対するゴールドスタンダード評価に,Fugl-Meyer Assessment(FMA)がある.FMAの上肢項目において,カットオフ値によって重症度を判別する報告も見られるが,合計得点での分布によって判断されており,肩肘前腕,手関節,手指,協調性といった下位項目それぞれの得点分布は不明である.そのため,上肢運動麻痺の程度や特徴を詳細に判断することができない.本研究の目的は,潜在ランク理論を用いてFMAの潜在ランク数を推定し,FMAの上肢項目における下位項目の難易度,各下位項目同士及びFMA全体得点における関係性を明らかにすることとした.これらが明らかになることで,Brunnstrom Recovery Stage(BRS)と比較してより客観的で臨床的に解釈しやすい指標の作成が可能になると考えた.
【方法】本研究は,横断的な多施設共同研究である.対象者の包含基準は,脳卒中を呈した20歳以上の男女とした.本研究の同意が得られた時点で対象者にFMAの上肢項目を測定し,測定結果と対象者情報を収集した.収集したデータに対して統計解析を行った.統計解析は,一次元性の確認,潜在ランク数の推定,潜在ランク間の比較を行った.一次元性の確認は,項目得点多列相関分析と探索的因子分析を行った.潜在ランク数の推定は,FMAの下位項目を近位項目と遠位項目に分けて,潜在ランク数4から8までの各モデルを表現した後に,潜在ランク理論の出力指標を考慮してFMAの下位項目の難易度を解釈がしやすいかどうかと情報量基準値を元に推定した.潜在ランク間の比較は,一般化線形モデルにて目的変数にFMAの合計得点,説明変数にFMAの潜在ランクを投入したモデルを検討した.統計解析は,R,Exametrikaを使用し,有意水準を5%とした.本研究は,所属大学の倫理審査の承認(2021-205)を受けている.
【結果】本研究の対象者は509名であった.FMAの一次元性は,反射の2項目を除いた31項目において確認された.潜在ランク数の推定では,ランク4から6のモデルではランク数が少ないため各ランクに該当する項目が多くなり解釈が難しく,ランク8のモデルではランク数が多いため各ランクの違いを解釈がしにくいことが分かった.そのため,近位項目と遠位項目共にランク7が最も適切であると判断された.ランク7のモデルでは,近位項目と遠位項目共にランクが上がるにつれて各ランクに所属する対象者の合計得点が上昇し,下位項目の反応確率も向上した.また,各ランクに所属する対象者の下位項目の平均得点に着目すると,BRSで示されている順に得点上昇をしないことが分かった.潜在ランク間の比較では,各ランク間において有意差を認めた(p<0.05).したがって,潜在ランク理論を用いてFMAの上肢項目を分析すると近位項目と遠位項目共に7層構造に分類することができた.
【考察】FMAの潜在ランク数は7が妥当と判断され,各ランクと下位項目の得点上昇に着目して新たな指標を作成した.近位項目では,BRSにおいて3相当の項目と4相当の項目が同ランクに所属し,遠位項目では,BRSにおいて3相当の項目と5相当の項目が同ランクに所属することが分かった.そのため,今回作成した指標は,BRSの指標とは異なる新たな上肢運動麻痺の程度を表現できる指標と考えた.一方で本研究は,横断的にデータを収集したため,脳卒中後の上肢運動麻痺の回復過程を表現することはできていない.また,今回は対象者の含意基準を,脳卒中を呈した者としており,詳細な病変や高次脳機能障害,感覚障害などの有無を検討できていない.そのため,今後は脳卒中後の上肢運動麻痺と他要因との関係性を明らかにしていく必要があると考える.