第57回日本作業療法学会

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一般演題

脳血管疾患等

[OA-13] 一般演題:脳血管疾患等 13

Sun. Nov 12, 2023 8:30 AM - 9:30 AM 第3会場 (会議場B1)

[OA-13-5] 認知再構成法を用いて痛みのセルフコントロールを試みた一症例

松本 多正, 井形 恵実, 長野 弘枝 (公益財団法人健和会 大手町リハビリテーション病院回復期・通所リハビリテーション科)

【はじめに】破局的志向とは痛みを消極的・破局的に捉え思考する疼痛認知の極端な歪みで,上手く対峙できなければ行動を過剰に回避し身体的・心理社会的機能障害に陥り痛みの慢性化に繋がるとされている(松原貴子2013).この有効な手段として適度な運動や認知行動療法(以下CBT)などが報告されている(沖田実・松原貴子2019).しかし急性痛から慢性疼痛への移行期にCBTを実施した報告は少ない.今回,中心性頸髄損傷発症後よりしびれと痛みを訴え職業復帰が困難な症例を発症39日目より担当した.初期評価の結果から痛みが夜間のみであることに着目し,器質的な問題ではなく痛みに対する認知面が問題と考え,CBTによる認知再構成法と運動の複合療法を実施した.その結果,痛みが緩和し職業復帰が可能となったため報告する.
【症例紹介】50代男性.X月Y日自宅で転倒し受傷(中心性頸髄損傷,第6頸椎左椎弓根骨折).Y+12日当院に入院.入院時よりADLは自立.主に夜間の両上肢の痺れと痛み,後頭部痛,痛みによる夜間不眠を認めた.職業は土建業の現場監督.Y+39日目より担当となった.
【初期評価】身体機能・活動の評価はneck disabirity index(以下NDI)を実施し29点,痛みの認知面の評価はtampa scale for kinesiophobia(以下TSK)を実施し47点,痛みの情動面の評価はhospital anxiety and depression scale(以下HADS)を実施し,不安尺度7点,抑うつ尺度11点であった.また痛みの感覚的側面の評価は数値評価スケール(以下NRS)を用いて頸部~両上肢に7程度の痛みと痺れがあった.面接により痛みや痺れは主に夜間安静時に起きており日中や活動時はなかったがそれについて自己認識はなかった.
【方法】CBTにおける認知再構成法をY+41日目より実施した.行動日記に痛みの程度や頻度,その時の状態などを記入させ客観視させた.活動時に痛みがないことから運動の内容を症例に考えさせペース配分のフィードバック(以下FB)を行った.睡眠時の姿勢は痛みが出ないように工夫した点を聞きながら痛みを客観視出来るようなFBを行った.リハは作業療法士のみの介入で,毎日1時間程度実施した.
【結果】Y+63日目に行った再評価では,NDI:3点,TSK:29点,HADSの不安尺度2点,抑うつ尺度6点であった.またNRSも1~2点と痛みや痺れが気にならなくなり良眠出来るようになりY+67日目に退院となった.なお,痛みに対する薬物療法は退院8日前に終了となったが痛みの再燃はなかった.退院後は現職復帰した.
【考察】本症例では痛みが夜間のみであることに着目し痛みの原因が認知の歪みではないかと考えCBTを実施した.短期間で痛みが軽減した理由として行動日誌を通した認知再構成法により痛みに対する認識を整理でき,心理社会的側面を好転できたのではないかと考える. 痛みに対する恐怖心が強い時期には行動面に働きかけ,患者自身の主体性を引きだすことが重要(木村慎二ら2018)とされている.また急性痛から慢性疼痛の移行期にCBTと運動の複合療法を実施し疼痛軽減を得たとの報告もみられる(岩永大輝ら2021).本症例では症例自身に運動の内容や頻度,日常生活の見直しについて考えさせたことが主体性を引き出すことへ繋がり,痛みに対する認識を変え,運動する時間を拡大するという行動変容に繋がったと考える.今回の結果から急性痛から慢性疼痛の移行期で生じている痛みの中には,認識の歪みが原因の可能性のものがあり,その場合CBTに基づく運動や行動面への働きかけが有用であることが示唆された.
【倫理的配慮・説明と同意】対象にはヘルシンキ宣言に基づき本報告の主旨を口頭および文章にて十分に説明し同意を得た.また開示すべきCOIはない.