[OA-3-2] 回復期脳卒中患者における全身炎症について
【はじめに】サルコペニアは骨格筋量,筋力,身体機能が低下した状態を指し,身体障害,QOLの低下,死亡などの有害な結果を引き起こす危険性があり,脳卒中に関連するサルコペニアは新たな概念として注目されている.近年,全身炎症が脳卒中回復期におけるサルコペニアと関連があることが報告されている.また,全身炎症は脳卒中後の機能的予後との関連を報告しているが,脳卒中上肢機能・手指機能に特化した調査は行われていない.本研究の目的は,全身炎症がサルコペニアとどのように関係しているか,また脳卒中上肢・手指の機能的予後にどのように関係しているかを脳卒中回復期の患者で明らかにすることとした.
【方法】2020年7月から2022年7月までの2年間で当院回復期リハビリテーション病棟に入棟し,すでに退院した脳卒中患者を対象とした.研究デザインは,後ろ向きコホート研究とした.全身炎症は,C反応性タンパク質(CRP)とアルブミン(Alb)の血中濃度から算出される修正Glasgow Prognostic Score(mGPS)を用いて評価し,以下のように算出された.CRP値が高く(>1.0mg/dL),Alb値が低い(<3.5g/dL)患者はスコア2,CRP値が高い(>1.0mg/dL)患者はスコア1,CRP値が≦1.0mg/dLの患者はスコア0とした.サルコペニア判定は,Asian Working Group for Sarcopenia2019(AWGS2019)アルゴリズムを用い,サルコペニア患者とサルコペニアでない患者に分け,調査した.判定基準はAWGS2019の推奨に従い,下腿周囲長の参考値を男性<34cm,女性<33cm,握力の参考値を男性<28kg,女性<18kgとした.主要評価項目はStroke Impairment Assessment Set(SIAS)の上肢・手指SIASとした.副次評価項目は退院時Functional Independence Measure(FIM),下腿周囲長,握力,Body Mass Index (BMI),Albとした.本研究は当院の倫理審査委員会の承認を得た.
【統計解析】サルコペニアの有無による群間比較にはt検定,カイ2乗検定を用いた.3つの独立したサンプルを比較するために一元配置分散分析one-way ANOVAを用いた.重回帰分析では,上肢SIAS・手指SIASにmGPSが独立して関連するか検討した.統計学的解析はEZR(version4.2.2)を使用し,有意水準は5%とした.
【結果】解析対象179名(男性94名,女性85名,平均年齢76.5±11.6歳)のうち116名(64.8%)がサルコペニア患者であった.サルコペニア患者はサルコペニアでない患者と比べて,mGPSに有意な差を認めた(p=0.0485).mGPSに基づく退院時の転帰の比較では,運動・認知FIM,入棟日数,下腿周囲長,Alb,SIAS,上肢・手指SIASが異なる群間で有意な差を認めた.退院時の上肢・手指SIASに対する重回帰分析の結果,退院時上肢SIASは入院時上肢SIASのみと独立して関連していた(回帰係数:0.758,P<0.001).退院時の手指SIASはmGPS(回帰係数:-0.246,P=0.007)と入院時手指SIAS(回帰係数:0.707,P<0.001)に関連していた.
【考察】本研究結果より,全身炎症はサルコペニア,脳卒中手指の機能的予後に関連していた.脳卒中患者の全身炎症のメカニズムは完全には解明されていないが,加齢に伴う骨格筋量の減少は,慢性的な低レベルの炎症によって炎症性サイトカインを産生することが報告されており,今回の結果と関連した可能性が示唆された.また,全身炎症と複合性局所疼痛症候群(CRPS)は関連している.CRPSは,疼痛・浮腫・腫脹・血流障害等の症状を呈し,脳卒中後の上肢機能・手指機能の回復を阻害する因子である.特に手関節より末梢部の症状は,運動療法の阻害因子となり,機能改善に影響を与えることが想定され,今回の結果につながったのではないかと考える.
【方法】2020年7月から2022年7月までの2年間で当院回復期リハビリテーション病棟に入棟し,すでに退院した脳卒中患者を対象とした.研究デザインは,後ろ向きコホート研究とした.全身炎症は,C反応性タンパク質(CRP)とアルブミン(Alb)の血中濃度から算出される修正Glasgow Prognostic Score(mGPS)を用いて評価し,以下のように算出された.CRP値が高く(>1.0mg/dL),Alb値が低い(<3.5g/dL)患者はスコア2,CRP値が高い(>1.0mg/dL)患者はスコア1,CRP値が≦1.0mg/dLの患者はスコア0とした.サルコペニア判定は,Asian Working Group for Sarcopenia2019(AWGS2019)アルゴリズムを用い,サルコペニア患者とサルコペニアでない患者に分け,調査した.判定基準はAWGS2019の推奨に従い,下腿周囲長の参考値を男性<34cm,女性<33cm,握力の参考値を男性<28kg,女性<18kgとした.主要評価項目はStroke Impairment Assessment Set(SIAS)の上肢・手指SIASとした.副次評価項目は退院時Functional Independence Measure(FIM),下腿周囲長,握力,Body Mass Index (BMI),Albとした.本研究は当院の倫理審査委員会の承認を得た.
【統計解析】サルコペニアの有無による群間比較にはt検定,カイ2乗検定を用いた.3つの独立したサンプルを比較するために一元配置分散分析one-way ANOVAを用いた.重回帰分析では,上肢SIAS・手指SIASにmGPSが独立して関連するか検討した.統計学的解析はEZR(version4.2.2)を使用し,有意水準は5%とした.
【結果】解析対象179名(男性94名,女性85名,平均年齢76.5±11.6歳)のうち116名(64.8%)がサルコペニア患者であった.サルコペニア患者はサルコペニアでない患者と比べて,mGPSに有意な差を認めた(p=0.0485).mGPSに基づく退院時の転帰の比較では,運動・認知FIM,入棟日数,下腿周囲長,Alb,SIAS,上肢・手指SIASが異なる群間で有意な差を認めた.退院時の上肢・手指SIASに対する重回帰分析の結果,退院時上肢SIASは入院時上肢SIASのみと独立して関連していた(回帰係数:0.758,P<0.001).退院時の手指SIASはmGPS(回帰係数:-0.246,P=0.007)と入院時手指SIAS(回帰係数:0.707,P<0.001)に関連していた.
【考察】本研究結果より,全身炎症はサルコペニア,脳卒中手指の機能的予後に関連していた.脳卒中患者の全身炎症のメカニズムは完全には解明されていないが,加齢に伴う骨格筋量の減少は,慢性的な低レベルの炎症によって炎症性サイトカインを産生することが報告されており,今回の結果と関連した可能性が示唆された.また,全身炎症と複合性局所疼痛症候群(CRPS)は関連している.CRPSは,疼痛・浮腫・腫脹・血流障害等の症状を呈し,脳卒中後の上肢機能・手指機能の回復を阻害する因子である.特に手関節より末梢部の症状は,運動療法の阻害因子となり,機能改善に影響を与えることが想定され,今回の結果につながったのではないかと考える.