第57回日本作業療法学会

講演情報

一般演題

脳血管疾患等/MTDLP

[OA-5] 一般演題:脳血管疾患等 5/MTDLP 1

2023年11月10日(金) 14:30 〜 15:30 第3会場 (会議場B1)

[OA-5-2] 脳卒中急性期患者の自宅退院か回復期病院転院かの転帰に影響するリハビリテーション開始時の評価項目の検討

井平 千津1, 尾倉 朝美1, 本眞 節美1, 北田 雄資2, 德田 良2 (1.三田市民病院リハビリテーション科, 2.三田市民病院脳神経外科)

【はじめに】
 近年,脳卒中急性期患者に対して早期に転帰の判断を求められているが,判断基準はなく難渋する場面に遭遇する.当院では2021年より脳梗塞または脳出血急性期患者の自宅退院か回復期リハビリテーション病院へ転院かの転帰に独立して関連する因子を検証している.前回の検証結果ではリハビリテーション開始時のFIM運動,入院前modified Rankin Scale (以下mRS),線分二等分試験が関連因子となり,FIM運動のカットオフ値は46点を示した.今回,検証精度の向上のために研究を継続し,対象者数を拡大して関連因子の再検証を行った.
【方法】
 対象は,2021年6月から2023年1月までに当院が初診で脳梗塞または脳出血の診断で入院となった223名(自宅退院90名,回復期転院133名).除外基準は回復期病院以外へ転院した者や死亡,入院後から症状増悪を認めた者(mRSが2以上低下)とした.
 転帰への関連因子を検証するため多変量解析を行った.説明変数は全て入院時の評価項目とし,前回検証したFIM運動,FIM認知,入院前mRS,線分二等分試験,手指模倣に加え,先行研究よりNational Institutes of Health Stroke Scale(以下NIHSS),上肢Brunnstrom stage(以下Br.st),手指Br.stとした.さらに関連した項目に対してROC曲線からカットオフ値を求め,その条件を満たす者が転院となる割合も算出した.
 なお,得られたデータは個人情報が特定できないよう匿名化し,当院で規定しているオプトアウトにより情報を管理して当院倫理委員会の承認を得た.
【結果】
 転帰に独立して関連する因子は,FIM運動(オッズ比:0.943,95%信頼区間:0.904-0.984,p<0.01),入院前mRS(オッズ比:0.501 ,95%信頼区間:0.289- 0.871,p=0.014),NIHSS(オッズ比:1.44,95%信頼区間:1.03-2.03,p=0.035),上肢Br.st(オッズ比:0.255,95%信頼区間:0.073-0.886,p=0.032)であった.FIM運動の判別能は高く,カットオフ値は前回同様に46点を示し,感度は88.9%,特異度は78.2%,AUCは0.89であった.また,NIHSSのカットオフ値は4点(感度86.5%,特異度71.6%,AUC0.85),上肢Br.stのカットオフ値はstageⅤ(感度81.0%,特異度75.4%,AUC:0.81)となった.
 そして,「FIM運動46点未満」の者は91.2%の確率で転院し,「FIM運動46点未満かつBr.stⅤ未満」の2条件を満たす者は94.1%,「FIM運動46点未満かつBr.stⅤ未満かつNIHSS4点以上」の3条件を満たす者は97.8%の確率で転院した.
【考察】
 今回,リハビリテーション初回評価からFIM運動と入院前mRSのほか,NIHSSと上肢Br.stが独立した関連因子となり,先行研究と同様に重症度や麻痺が評価項目として重要であることが確認できた.前回と同様にFIM運動は高い判別能を示しており,転帰を予測する上でADLを把握する必要性が高いことを改めて認識した.また,関連因子のカットオフ値を算出して条件を明確にすることは,より転帰予測の精度を上げることができると示唆された.急性期での転帰予測は多種多様な要因があり予測精度が低いことが課題であるが,研究を継続することで正確性を高めて検証することができ,当院入院時に必要な評価項目がより明らかになった.セラピストの経験年数に関係なく,必要な情報から客観的に適切な転帰先の判断を速やかに行うことで,対象者が早期に生活復帰を果たせるよう今後も臨床において有効性の高い検証を追究していきたい.