第57回日本作業療法学会

講演情報

一般演題

脳血管疾患等/援助機器

[OA-9] 一般演題:脳血管疾患等 9/援助機器 1

2023年11月11日(土) 12:30 〜 13:30 第3会場 (会議場B1)

[OA-9-2] ICTを活用し仕事仲間とのつながりを目指した第一頸髄損傷の一例

紀 皓大1, 土岐 明子2, 齋藤 利恵1, 河津 聡1 (1.地方独立行政法人 大阪府立病院機構 大阪急性期・総合医療センター医療技術部 セラピスト部門, 2.地方独立行政法人 大阪府立病院機構 大阪急性期・総合医療センターリハビリテーション科)

【はじめに】
高位頸髄損傷者はスイッチデバイスを使用することでスマートフォン(以下:スマホ)やパソコン(以下:PC)を操作することが可能となる.スイッチデバイスは様々な機器が開発され,スマホでは基本設定のアクセシビリティを活用することにより操作できる.今回,第一頸髄損傷の症例に情報伝達技術(以下:ICT)とスイッチデバイスを活用し,スマホとPCが使用可能になり操作効率と満足度が向上する環境設定を行うことによって,仕事仲間とのつながりを目指した支援ができたので報告する.発表に際し,症例に書面にて説明し同意を得た.
【症例紹介】
50代男性.X年Y月に入浴時に転倒し他院へ救急搬送された.後縦靱帯骨化症,頸髄損傷と診断され保存加療となった.Y月+2ヶ月後にリハビリテーション目的で当院へ転院となった.身体機能はASIA Impairment Scale:A,Neurological Level of Injury:C1,Spinal Cord Independence Measure(以下:SCIM):0点であった.MMTでは頸部回旋2,頭部屈曲1,伸展1,頸部屈曲1であった.ROMは頸部右回旋10°,左回旋15°であった.仕事はコンピューターグラフィックデザイナーをしていた.Hopeは「スマホ,PCを使ってメールや整理をしたい」「デザイナーを続けられたらいいな」であった.スマホ,PCを使用することに関してカナダ作業遂行測定(以下COPM)で評価し,重要度:8点,遂行度:1点,満足度1点であった.
【介入と結果】
スマホのスイッチ機能を用いて操作能力の評価を行い環境設定した.口を使用するスイッチデバイスでは動作時の疲労感が強いため,頸部の回旋でスイッチ入力できるように設定した.設定はスマホのユーザー補助機能とアプリ『簡単スクロール』で画面操作を行えるように設定した.Pacific Supply株式会社製ビッグスイッチを用いて,頸部右回旋で押す設定により,ポイントスキャンモードにてメール作成やSNSを閲覧できた.COPMは重要度:8点,遂行度6点,満足度5点であった.遂行度と満足度が5~6点である理由は,50文字程度のメール作成に30分以上時間を要すこと,ビックスイッチがPCでは使用できないことが挙がった.次にPCの環境設定は,PERIXXのPERIPRO-706ワイヤレストラックボールマウス(以下:ボールマウス)をスタンダードアームとユニバーサルマウンティングプレートにビニールテープで固定し顎でボールマウスを操作することで,頸部屈曲回旋でクリックができ使用可能となった.誤作動は0回/5回中と無く,50文字程度のメール作成も約10分で文章入力が可能で仕事仲間とメールのやりとりが可能になった.症例は「スマホとPC両方とも使えるからよかった」と発言がみられた.COPMは重要度:8点,遂行度8点,満足度8点であった.身体機能はSCIM:6点,MMTでは頭部伸展2,ROMは頸部右回旋25°,左回旋20°であった.施設退院となったため,環境設定について書面を作成し情報提供を行った.
【考察・まとめ】
本症例は頭頸部筋と表情筋を評価して残存機能を活用できるスイッチデバイスを検討する必要がある.ビッグスイッチの活用は頸部回旋によるスマホ操作が簡易となったが,PCでは使用できないことやポイントスキャンモードで行うとメール作成に時間がかかりCOPMの遂行度,満足度の向上につながらなかったと考える.ボールマウスは固定を工夫することで,顎と頸部屈曲回旋で操作が可能になりメール作成の時間が短縮し効率性,遂行度が向上し,スマホとPCの両方で使用可能なことにより満足度が向上したと考える.ICT活用は他者とのコミュニケーションの再獲得ができ,本症例は仕事仲間と連絡するきっかけを作り支援の継続ができたと考える.