[OA-9-4] 脳卒中患者と大腿骨近位部骨折患者における入浴自立に必要なバランス機能水準の相違
【序論/目的】
入浴は多くの動作の複合であり,自立の最も難しいADLの一つである.脳卒中患者や大腿骨近位部骨折患者ではリハビリテーション後もその自立が困難である者が多い(Melo, et al. 2021; Alarcón, et al. 2011).一方,入浴は身体の清潔を保ち心身をリラックスさせるではなく,主観的な健康状態および睡眠の質の向上や心血管疾患リスクの低減にも影響する重要な活動である(Hayasaka, 2010; Ukai, 2020).
入浴の自立にはバランス機能が深く関与する.しかし,その水準(カットオフ値等)はこれまで明らかにされておらず,さらに水準は疾患により異なる可能性がある.本研究では回復期リハビリテーション病棟の主要な入院患者であり,入浴に関連するアプローチが行われることの多い脳卒中患者と大腿骨近位部骨折患者を対象として,入浴自立に必要なバランス機能水準を明らかにすることである.本研究の知見は,入浴自立を目指す際のバランス評価の解釈に役立ち,またバランス練習の目標値となり得る.
【方法】
対象は回復期リハビリテーション病棟の入院患者260名(脳卒中201名,大腿骨近位部骨折59名)である.本研究は後方視的観察研究であり,所属機関の倫理審査委員会で承認を得たのち,オプトアウトを実施して研究を開始した.
まず脳卒中患者と大腿骨近位部骨折患者のそれぞれにおいて,入浴(シャワー浴を含む)の自立とバランス機能が関連することを確認するため,ロジスティック回帰分析を行った.従属変数は入浴の自立可否,独立変数はバランスの指標であるBerg balance scale(BBS)とし,交絡の調整を目的として年齢,性別,改訂長谷川式簡易知能スケールを調整変数として投入し,さらに脳卒中患者ではStroke Impairment Assessment Set,大腿骨近位部骨折患者では膝伸展筋力を調整変数に加えた.ロジスティック回帰分析で入浴自立とBBSの関連性が認められた場合,ROC解析でROC曲線下面積およびカットオフ値を算出した.
【結果】
ロジスティック回帰分析の結果,脳卒中患者と大腿骨近位部骨折患者のそれぞれでBBSは入浴の自立可否と有意に関連した(p<0.05).ROC解析の結果,脳卒中患者ではBBSのAUC 0.90,入浴自立のカットオフ値48点(感度84.7%,特異度79.1%),大腿骨近位部骨折患者ではAUC 0.88,カットオフ値は43点(感度81.3%,特異度77.8%)となった.
【考察】
本研究から脳卒中患者と大腿骨近位部骨折患者それぞれの入浴自立に必要なBBSの水準が明らかとなった.大腿骨近位部骨折患者では片麻痺患者に比べて,両手で支持物を把持しながら移動・移乗することが容易でありバランス機能の代償が可能であるため,要求されるバランス機能が低くなった可能性がある.本研究で算出されたカットオフ値は,作業療法士が入浴介入の際にBBSの結果を解釈するための簡便で有用な指標になると考えられる.
入浴は多くの動作の複合であり,自立の最も難しいADLの一つである.脳卒中患者や大腿骨近位部骨折患者ではリハビリテーション後もその自立が困難である者が多い(Melo, et al. 2021; Alarcón, et al. 2011).一方,入浴は身体の清潔を保ち心身をリラックスさせるではなく,主観的な健康状態および睡眠の質の向上や心血管疾患リスクの低減にも影響する重要な活動である(Hayasaka, 2010; Ukai, 2020).
入浴の自立にはバランス機能が深く関与する.しかし,その水準(カットオフ値等)はこれまで明らかにされておらず,さらに水準は疾患により異なる可能性がある.本研究では回復期リハビリテーション病棟の主要な入院患者であり,入浴に関連するアプローチが行われることの多い脳卒中患者と大腿骨近位部骨折患者を対象として,入浴自立に必要なバランス機能水準を明らかにすることである.本研究の知見は,入浴自立を目指す際のバランス評価の解釈に役立ち,またバランス練習の目標値となり得る.
【方法】
対象は回復期リハビリテーション病棟の入院患者260名(脳卒中201名,大腿骨近位部骨折59名)である.本研究は後方視的観察研究であり,所属機関の倫理審査委員会で承認を得たのち,オプトアウトを実施して研究を開始した.
まず脳卒中患者と大腿骨近位部骨折患者のそれぞれにおいて,入浴(シャワー浴を含む)の自立とバランス機能が関連することを確認するため,ロジスティック回帰分析を行った.従属変数は入浴の自立可否,独立変数はバランスの指標であるBerg balance scale(BBS)とし,交絡の調整を目的として年齢,性別,改訂長谷川式簡易知能スケールを調整変数として投入し,さらに脳卒中患者ではStroke Impairment Assessment Set,大腿骨近位部骨折患者では膝伸展筋力を調整変数に加えた.ロジスティック回帰分析で入浴自立とBBSの関連性が認められた場合,ROC解析でROC曲線下面積およびカットオフ値を算出した.
【結果】
ロジスティック回帰分析の結果,脳卒中患者と大腿骨近位部骨折患者のそれぞれでBBSは入浴の自立可否と有意に関連した(p<0.05).ROC解析の結果,脳卒中患者ではBBSのAUC 0.90,入浴自立のカットオフ値48点(感度84.7%,特異度79.1%),大腿骨近位部骨折患者ではAUC 0.88,カットオフ値は43点(感度81.3%,特異度77.8%)となった.
【考察】
本研究から脳卒中患者と大腿骨近位部骨折患者それぞれの入浴自立に必要なBBSの水準が明らかとなった.大腿骨近位部骨折患者では片麻痺患者に比べて,両手で支持物を把持しながら移動・移乗することが容易でありバランス機能の代償が可能であるため,要求されるバランス機能が低くなった可能性がある.本研究で算出されたカットオフ値は,作業療法士が入浴介入の際にBBSの結果を解釈するための簡便で有用な指標になると考えられる.