第57回日本作業療法学会

講演情報

一般演題

呼吸器疾患

[OC-1] 一般演題:呼吸器疾患 1

2023年11月10日(金) 13:20 〜 14:20 第7会場 (会議場B3-4)

[OC-1-4] COVID-19中等症病棟入院患者に対する作業療法の有効性

村瀬 瑞希1, 塩田 繁人1, 後藤 直哉1, 牛尾 会2, 三上 幸夫2 (1.広島大学病院診療支援部リハビリテーション部門, 2.広島大学病院リハビリテーション科)

【はじめに】新型コロナウイルス感染症(以下,COVID-19)に罹患し,感染対策によって隔離された入院患者は,低刺激環境や臥床期間の増加によって,廃用症候群の進行が問題視された.先行研究では,COVID-19患者は日常生活活動(以下,ADL)が中長期的に低下することや,せん妄発症率が10.2%であり,せん妄の発症は死亡率を増加させることなどが報告されている.リハビリテーション治療の効果として,身体機能やQOLを改善することが示されているが,作業療法(以下,OT)に焦点を当ててADLやせん妄への影響を調査した報告はほとんどない.本研究の目的は,入院管理が必要とされたCOVID-19患者に対する作業療法の有効性をADLに焦点を当てて調査することである.
【対象と方法】研究デザイン:傾向スコアマッチングを用いた後ろ向きコホート研究.
対象:2021年5月~2022年10月に当院COVID-19中等症病棟に入院し,リハビリテーション治療を実施した全患者168例.
方法:診療録の後方視的調査.対象者をOT実施群(介入群)とOT未実施群(比較群)に分類し以下の調査項目を比較した.
調査項目:主要アウトカム:開始時と終了時のBarthel Index(以下,BI)の変化量.その他:年齢,性別,COVID-19重症度,認知症高齢者の日常生活自立度(以下,認知症自立度),在院日数,開始時と終了時のせん妄重症度の変化量,転帰,入院前の居住地,同居家族,要介護度,薬物療法,酸素療法,併存疾患,疾患別リハビリテーションの総単位数(以下,総単位数).せん妄重症度の評価はニーチャム混乱・錯乱状態スケール,併存疾患の評価としてチャールソン併存疾患指数を用いた.
統計解析:目的変数をOT実施の有無,説明変数を年齢・認知症自立度としてロジスティック回帰分析にて傾向スコアを算出した.マッチングは非復元抽出方法,Caliperは傾向スコアの標準偏差の0.2倍とした.マッチング後,両群間を対応のないt検定およびχ2検定で比較した.有意水準は両側5%未満,解析ソフトはSPSS vol.27を使用した.
倫理的配慮:当院疫学倫理審査委員会の承認を得た.(承認番号:E-0245)
【結果】全168例のうち,介入群は45例,比較群は123例であった.マッチング後,両群はそれぞれ40例となり,両群が同質の集団であることを確認した.マッチング後集団の基本属性は,年齢77.2±15.5歳,性別は男性44例,女性36例,認知症自立度は0が38例,Ⅰが4例,Ⅱが16例,Ⅲが18例,Ⅳが4例であった.主要アウトカムであるBI変化量は介入群13.6±25.5,比較群-4.5±34.0で有意差を認めた(p=0.009,効果量(d)=0.603).また,せん妄変化量(介入群1.6±2.1,比較群-1.5±7.9,p=0.019,効果量(d)=0.535)と,総単位数(介入群17.4±29.9,比較群6.3±6.6,p=0.026,効果量(d)=0.514)に有意差を認めた.
【考察】本研究においてOTを実施した群がマッチング後比較群よりも,BIが有意に改善しており,せん妄重症度は改善し,総単位数が多かった.介入群のBIの変化量が大きかったことは,介入群が比較群に対して総単位数が多いという量的な要因の影響が考えられた.介入群にはOT実施によって隔離環境下においてもADL訓練や希望する活動を支援したが,本研究ではOTのどの内容が有効であったかを明示することは困難である.今後はOTの内容による効果検証を実施していく必要がある.また,せん妄重症度の変化量が大きかったことは,OTによる活動量増加が影響したと考える.せん妄の促進因子は感覚遮断や睡眠リズムの障害,心理的ストレス等が知られ,COVID-19患者の入院環境はこれらの因子が多く揃う.こうした環境においてOTでの活動や環境調整などがせん妄予防に有効だった可能性が示唆される.