[OF-2-2] 膠芽腫患者の健康関連QOLに影響を及ぼす因子
【背景】膠芽腫は予後不良の疾患であり,治療においては生命予後の延長が最も重視される.これまでに,神経学的症状の有無が生命予後に影響を及ぼすことが知られている.しかし,膠芽腫患者の主観的なQuality of life(QOL)と生命予後の関連については明らかになっていない.本研究の目的は,膠芽腫患者の健康関連QOLと生命予後の関連を調べ,QOLに影響を及ぼす因子を検討することである.
【方法】2015年3月から2022年9月の間に金沢大学附属病院で脳腫瘍摘出術を施行し,再発なく6ヶ月以上が経過した初発膠芽腫のうち,QOL評価を実施できた34症例(IDH野生型)を対象とした.年齢は平均56.4歳,病変は右21例,左13例であった.術前Karnofsky Performance Status(KPS)は平均84.7(50-100), 摘出率は平均99.1%であった.全症例において術後6ヶ月時点で, KPS,種々の脳機能検査,そして健康関連QOLの評価としてSF-36を行った.SF-36は3つのサマリーコンポーネントスコア,身体的健康度(PCS),精神的健康度(MCS),社会役割健康度(RCS)を算出した.また,無増悪生存期間(PFS)と全生存期間(OS)を調べた.統計解析は,PFS,OSとQOLの関連を調べるため,Cox比例ハザードモデルによる生存時間分析を行った.また,QOLと関連する因子を調べるため,ステップワイズ法による重回帰分析を用いて,サマリーコンポーネントスコアと種々の脳機能因子,背景因子の関連を調べた.さらに,QOL低下と関連する脳領域を調べるため,Voxel-based lesion symptom (VLSM) 解析を行った.本研究は金沢大学医学倫理審査委員会の承認を得て行い,対象者からは書面による同意を得た.
【結果】PFSは中央値19ヶ月,OSは中央値30ヶ月であった.PFS/OSとQOL(PCS,MCS,RCS)の関連を調べると,OSとPCSの間にのみ有意な関連を認めた(p=0.039).そこで,PCSに影響を及ぼす因子について解析した.PCSと関連を認めた背景因子は,病変部位と6ヶ月時点のKPSであった(各々p=0.037, p=0.030).また,種々の脳機能のうち,PCSと有意な関連を認めたのは視空間認知機能と麻痺であった(各々p=0.012, p=0.0056).次いで,病変部位,6ヶ月時点のKPS,視空間認知機能,麻痺を説明変数とした重回帰分析を行うと,視空間認知機能と麻痺のみがPCSと有意な関連を認めた.VLSMの結果,右上前頭回内側および中前頭回深部白質が摘出されている症例において,PCSが有意に低下していた.VLSM陽性領域が摘出されている症例は,温存されている症例に比べて麻痺または視空間認知障害を認める確率が有意に高かった(カイ二乗検定,p=0.0013).
【考察】QOLは生命予後に関与することから,QOLの維持を目標とした作業療法実践の重要性が示唆された.QOLと関連する因子は視空間認知機能と麻痺の有無であったことから,これらの機能回復を目的とした介入はQOLの維持・向上に貢献できる可能性がある.VLSMで有意な関連を認めた上前頭回内側は運動,中前頭回深部白質は視空間認知機能に関わる主要な領域である.従って,本領域が摘出されている症例においては術後早期からの積極的な治療介入が必要と考えられた.
【結語】膠芽腫において,健康関連QOLはOSと関連していた.QOLに影響を及ぼす因子は視空間認知機能と麻痺の有無,そして摘出領域は右上前頭回内側と中前頭回深部白質であった.
【方法】2015年3月から2022年9月の間に金沢大学附属病院で脳腫瘍摘出術を施行し,再発なく6ヶ月以上が経過した初発膠芽腫のうち,QOL評価を実施できた34症例(IDH野生型)を対象とした.年齢は平均56.4歳,病変は右21例,左13例であった.術前Karnofsky Performance Status(KPS)は平均84.7(50-100), 摘出率は平均99.1%であった.全症例において術後6ヶ月時点で, KPS,種々の脳機能検査,そして健康関連QOLの評価としてSF-36を行った.SF-36は3つのサマリーコンポーネントスコア,身体的健康度(PCS),精神的健康度(MCS),社会役割健康度(RCS)を算出した.また,無増悪生存期間(PFS)と全生存期間(OS)を調べた.統計解析は,PFS,OSとQOLの関連を調べるため,Cox比例ハザードモデルによる生存時間分析を行った.また,QOLと関連する因子を調べるため,ステップワイズ法による重回帰分析を用いて,サマリーコンポーネントスコアと種々の脳機能因子,背景因子の関連を調べた.さらに,QOL低下と関連する脳領域を調べるため,Voxel-based lesion symptom (VLSM) 解析を行った.本研究は金沢大学医学倫理審査委員会の承認を得て行い,対象者からは書面による同意を得た.
【結果】PFSは中央値19ヶ月,OSは中央値30ヶ月であった.PFS/OSとQOL(PCS,MCS,RCS)の関連を調べると,OSとPCSの間にのみ有意な関連を認めた(p=0.039).そこで,PCSに影響を及ぼす因子について解析した.PCSと関連を認めた背景因子は,病変部位と6ヶ月時点のKPSであった(各々p=0.037, p=0.030).また,種々の脳機能のうち,PCSと有意な関連を認めたのは視空間認知機能と麻痺であった(各々p=0.012, p=0.0056).次いで,病変部位,6ヶ月時点のKPS,視空間認知機能,麻痺を説明変数とした重回帰分析を行うと,視空間認知機能と麻痺のみがPCSと有意な関連を認めた.VLSMの結果,右上前頭回内側および中前頭回深部白質が摘出されている症例において,PCSが有意に低下していた.VLSM陽性領域が摘出されている症例は,温存されている症例に比べて麻痺または視空間認知障害を認める確率が有意に高かった(カイ二乗検定,p=0.0013).
【考察】QOLは生命予後に関与することから,QOLの維持を目標とした作業療法実践の重要性が示唆された.QOLと関連する因子は視空間認知機能と麻痺の有無であったことから,これらの機能回復を目的とした介入はQOLの維持・向上に貢献できる可能性がある.VLSMで有意な関連を認めた上前頭回内側は運動,中前頭回深部白質は視空間認知機能に関わる主要な領域である.従って,本領域が摘出されている症例においては術後早期からの積極的な治療介入が必要と考えられた.
【結語】膠芽腫において,健康関連QOLはOSと関連していた.QOLに影響を及ぼす因子は視空間認知機能と麻痺の有無,そして摘出領域は右上前頭回内側と中前頭回深部白質であった.