[OH-2-2] 認知症高齢者に対する運動療法と集団作業療法の併用による行動・心理的症状の治療効果:病院ベースの無作為化比較試験
【序論】
認知症患者の行動・心理的症状(BPSD)は,介護者負担を増大させ,精神科病院の入院のきっかけとなりやすい.BPSDの治療は,認知症診療における重要な役割であるが,薬物療法は有害な副作用を惹起する可能性があるため,非薬物療法にて薬物療法の補助または代替する手段が望まれる.
入院診療におけるBPSDの軽減を目的とした非薬物療法について,個別の運動療法(ET)の方が,精神科医療で通常行われている集団を活用した作業療法(集団OT)に比べ,効果的であると報告がある(Fleiner, 2017).しかし,集団OTは,BPSDの軽減だけでなく日常生活動作(ADL)やQOLを高める効果があり,費用対効果が高いとされ,わが国の精神科診療に不可欠である.そのため,精神科医療での活用を考慮すると,集団OTに加えてETを併用することの効果を確認する必要がある.
【目的】
認知症患者を対象に,集団OTとETを併用する介入群と,集団OTのみの対照群について,BPSDやADL能力の治療効果を無作為化比較試験にて明らかにする.
【方法】
対象は,認知症診療を専門とする医師に,DSM-5診断基準にて認知症と診断された,60歳以上の精神科入院患者である.割り付けは,中央登録方式にて,年齢,性別,認知機能スコア,認知症の種類を考慮して層別ランダム化した.介入期間は2週間,集団OTは5日/週,2回/日,120分/回,ETは5日/週,2回/日,20分/回とし,計画通りに治療を完了した対象のみ解析に含めるPer protocol setとした.介入前後の評価は,BPSD評価にNeuropsychiatric Inventory Nursing Home Version (NPI-NH),Behavioral Pathology in Alzheimer’s Disease (Behave-AD),Mental Function impairment Scale (MENFIS)を用いた.ADL評価に,Disability Assessment for Dementia (DAD)を用いた.交絡となりうる薬剤について,抗精神病薬はクロルプロマジン等価用量にて定量化し,抗認知症薬は変更の有無の割合を集計した.統計解析について,介入群と対照群の基本的特性の比較は,変数に応じてt検定やχ二乗検定を行った.介入前後の評価の比較は,各群Wilcoxonの符号付順位検定にて解析した.有意水準は5%未満とした.
本研究は,熊本大学の倫理委員会にて承認(先進第2436号)され,内容を遵守して実行された.
【結果】
同意を得て研究に参加した対象者は18名であった.そのうち計画通りに治療を完了したのは,介入群8例(年齢80.4±8.4歳,男女比3:5,MMSE16.8±5.0点),対照群6例(年齢76.0±4.9歳,男女比1:5,MMSE18.7±1.8点)であった.
統計解析の結果,介入群と対象群の基本的特性に有意差はなかった.介入前後の評価は,介入群のNPI-NHの合計点にのみ有意な低下を認めた(p=0.048).その他のBPSD評価やADL評価,薬剤の変更の割合やクロルプロマジン等価用量は,両群ともに有意差を認めなかった.
【考察】
2週間の集団OTとETを併用群は,NPI-NHで評価される認知症患者のBPSDを有意に減少させた.集団OTとETの併用療法は,認知症のBPSD治療において,薬物治療を補う手法となる可能性がある.また,集団OTのみ群は,BPSDやADLともに治療効果が確認されなかった.研究の限界は,サンプルサイズが小さく,ADL改善を示した過去の報告(Ham, 2021)より,介入期間が短かったことが結果に影響している可能性がある.したがって,今回の結果を裏付けるには,より多くの症例数を用いて厳密に調査することが望まれる.
認知症患者の行動・心理的症状(BPSD)は,介護者負担を増大させ,精神科病院の入院のきっかけとなりやすい.BPSDの治療は,認知症診療における重要な役割であるが,薬物療法は有害な副作用を惹起する可能性があるため,非薬物療法にて薬物療法の補助または代替する手段が望まれる.
入院診療におけるBPSDの軽減を目的とした非薬物療法について,個別の運動療法(ET)の方が,精神科医療で通常行われている集団を活用した作業療法(集団OT)に比べ,効果的であると報告がある(Fleiner, 2017).しかし,集団OTは,BPSDの軽減だけでなく日常生活動作(ADL)やQOLを高める効果があり,費用対効果が高いとされ,わが国の精神科診療に不可欠である.そのため,精神科医療での活用を考慮すると,集団OTに加えてETを併用することの効果を確認する必要がある.
【目的】
認知症患者を対象に,集団OTとETを併用する介入群と,集団OTのみの対照群について,BPSDやADL能力の治療効果を無作為化比較試験にて明らかにする.
【方法】
対象は,認知症診療を専門とする医師に,DSM-5診断基準にて認知症と診断された,60歳以上の精神科入院患者である.割り付けは,中央登録方式にて,年齢,性別,認知機能スコア,認知症の種類を考慮して層別ランダム化した.介入期間は2週間,集団OTは5日/週,2回/日,120分/回,ETは5日/週,2回/日,20分/回とし,計画通りに治療を完了した対象のみ解析に含めるPer protocol setとした.介入前後の評価は,BPSD評価にNeuropsychiatric Inventory Nursing Home Version (NPI-NH),Behavioral Pathology in Alzheimer’s Disease (Behave-AD),Mental Function impairment Scale (MENFIS)を用いた.ADL評価に,Disability Assessment for Dementia (DAD)を用いた.交絡となりうる薬剤について,抗精神病薬はクロルプロマジン等価用量にて定量化し,抗認知症薬は変更の有無の割合を集計した.統計解析について,介入群と対照群の基本的特性の比較は,変数に応じてt検定やχ二乗検定を行った.介入前後の評価の比較は,各群Wilcoxonの符号付順位検定にて解析した.有意水準は5%未満とした.
本研究は,熊本大学の倫理委員会にて承認(先進第2436号)され,内容を遵守して実行された.
【結果】
同意を得て研究に参加した対象者は18名であった.そのうち計画通りに治療を完了したのは,介入群8例(年齢80.4±8.4歳,男女比3:5,MMSE16.8±5.0点),対照群6例(年齢76.0±4.9歳,男女比1:5,MMSE18.7±1.8点)であった.
統計解析の結果,介入群と対象群の基本的特性に有意差はなかった.介入前後の評価は,介入群のNPI-NHの合計点にのみ有意な低下を認めた(p=0.048).その他のBPSD評価やADL評価,薬剤の変更の割合やクロルプロマジン等価用量は,両群ともに有意差を認めなかった.
【考察】
2週間の集団OTとETを併用群は,NPI-NHで評価される認知症患者のBPSDを有意に減少させた.集団OTとETの併用療法は,認知症のBPSD治療において,薬物治療を補う手法となる可能性がある.また,集団OTのみ群は,BPSDやADLともに治療効果が確認されなかった.研究の限界は,サンプルサイズが小さく,ADL改善を示した過去の報告(Ham, 2021)より,介入期間が短かったことが結果に影響している可能性がある.したがって,今回の結果を裏付けるには,より多くの症例数を用いて厳密に調査することが望まれる.